調査の結果、信頼崩壊の発端の多くが、相手に対する極めて攻撃的で陰湿、辛辣な言動によることを示していたそうです。例えば、その一つは、「ある日、裏で批判めいたことを言っていたと人づてに聞いた」というものです。それを耳にしてしまった日を境に、関係性が崩壊したという内容は、上司、部下を問わず挙がっているそうです。
ちなみに、これは「ウィンザー効果」と言って、面と向かって批判されるよりも、第三者を通じて悪口を聞く方が、インパクトが強くなることがあるので要注意だと山浦氏は言っています。なぜ、第三者の言葉の方を信じてしまうのか不思議な話です。しかし、私たちが常に相手との関係は大丈夫か、信頼に足る相手かなどと日々探っていることの反映だと考えれば、説明はつきそうだと言います。人の気持ちや関係性は移ろいやすく脆いということなのではないかと言うのです。そして、第三者は、あたかも自分たちを客観的に判定してくれる存在で、その第三者からお墨付きをもらえれば安心し、そうでなければ、またさらに念入りな探索を始めようとするのではないかと言います。このような心理的な作用があるからこそ、ネット通販のレビュー機能が成り立っているのかもしれないと山浦氏は言うのです。いずれにしても、私たちの言葉は、自分が思っているより良くも悪くも影響力があり、思いがけない危険を孕んだものでありそうだと言うのです。
“部下によるミスの隠蔽が発覚して、仕事が危機的な状態に陥った”その日に、信頼関係が崩壊したケースなどもあるそうです。このケースをよく見てみると、ミスだけではなく、それが隠蔽されていたという不誠実さ、その影響は組織レベルで深刻なものだった、という三重奏だったそうです。
つまりミスの隠蔽が、なぜ破壊的なインパクトをもたらすかと言えば、一つは、信頼できそうだと期待を寄せていた矢先に「まさかこの部下が…」「こんなとんでもないミスをしでかして…」、しかも「隠蔽までして…」と、裏切られたショックや失望感、怒り、あるいは相手を信頼しようとしていた自分に対する後悔の念も含んで、いくつものネガティブな感情に襲われるからだと言うのです。そしてまた、これらのネガティブな感情が、「そういう人だったのか」と、その人の人柄や気質に確信を持って帰属するからだと言うのです。
これが仮にたまたまのことで、この状況ならば仕方がないと情状的量の余地を持たせることができるならば、関係崩壊は免れるかもしれないと言います。しかし、一般に、私たちは、その人が長年培ってきたもの、例えば、性格、価値観・道徳観などは、そう簡単に変えられないと山浦氏は考えています。悪いコト、しかもそれが深刻なコトであった場合はとくに、その原因を相手の人柄に帰属させ、「もう、こんな人とは付き合えない!」と思ってしまいやすいと言うのです。安心して付き合える相手だとは思えないからです。
他方、信頼関係崩壊の発端が、上司の場合もあると言います。「取引先との商談があるのに、上司は有給をとって海外旅行に出かけた」「上司が部下である自分の手柄を横取りして会社に報告した」「仕事の責任をすべて部下に押し付けてくる言葉が発せられた」「上司が会議録の改ざんを指示してきた」などです。これらはいずれも、その日、その瞬間に致命的な不信感を部下にもたらしたケースです。ある日、明るみに出た非倫理的な言動や価値観、利己的なふるまい、上司の権力の腐敗に触れてしまったとき、信頼関係は地に堕ちてしまうと言うのです。