ベクトルの方向

山浦氏は、チームは、「力の合成と分解」と同じ原理で力を発揮していると言います。一人ひとりが発揮する力のべクトルが合わさることで、より大きなチーム力を生み出すと言うのです。ところが、ベクトルが別々の方向を向いていると、その対角線分の力になりますし、反対向きであれば大きな力が発揮されても引き算されてしまうと言うのです。毎日の仕事に忙殺されると、仕事の方向性が当初の目的や目標からズレてしまうことや、悪気なく忘れ去られてしまうことがしばしば起こってしまいます。そういう毎日だからこそ、節目には時間をとって確認したいものだと言うのです。ちょっと思い出すだけで、ズレかかっていたベクトルを、軌道修正することができると言うのです。ベクトルが合えば、言葉は誤解なくスムーズに流れるようになるというのです。

例えば、大学スポーツチームの多くは、主将や副将などの幹部選手たちが中心になって、スローガンや目標を一生懸命に考えます。残念ながら、一生懸命に練って、かっこいいフレーズができたからと言って、勝てるわけではありません。それがすぐに、チームに入部したばかりの1年生にまで浸透するとも限りません。しかし、強いチームや成長していくチームは、そのようなスローガンを土台にした取り組みを、日々の練習の中で根気強く続けます。そして、もう一段強いチーム、その後も幅広く活躍する選手を輩出するチームでは、その言葉と、込められた思いをいつも好んで使います。その取り組みをした先に何があるのか、「何」のためにスローガンを意識して今この練習をしているのかという意味づけができたとき、人や組織はもう一歩先に進めると言うのです。

企業でも同じだと言います。JALは2010年に経営破綻、会社更生法の適用という事態に陥りました。負債総額は約2.3兆円で、事業会社としては戦後最大の破綻でした。ところが、わずか2年後には「史上最高の純利益」を出すほどの、劇的なV字回復を遂げたのです。

従業員が数万人規模の大組織でありながら、短期間で結果を出せる集団に変貎したのです。実はその際に大きな役割を果たしたのが、「JALフィロソフィ」と呼ばれる、破綻後に新たに明文化された経営理念だと言われています。山浦氏らのプロジェクトチームでは、JALに勤める社員を対象に、経営破綻する前と後の職場の雰囲気を回答してもらったことがあるそうです。

その内容について質的分析をしてみると、経営破綻前に比べて、破綻後は前向きに一体感を持って取り組む職場に変化していることが明らかになりました。さらに別のプロジェクトチームによる社員へのインタビューでは、JALフィロソフィができる前とその後について、次のように語られています。

“フィロソフィができるまでは、マニュアルに基づいた原則論で、ものごとが決まることがほとんどであった。また、新しい取り組みや施策について、上司や周囲が前向きに捉えてもらえないことが往々にしてあった。その結果として、個人個人の考え方や思いがまちまちで、べクトルが合っていないと感じることが多かった。それがフィロソフィの浸透とともに、果敢に挑戦する、常に明るく前向きに、人として何が正しいかで判断するといった指針ができ、企業理念の実現に向け、いろいろなことが進めやすくなり、自ずとべクトルも合うようになったと感じている。”