妬みの役割

妬みは、有能な相手から自分の資源を確実に守るためのセンサーの役割を担っていると言います。ただし、現代の人間関係では、自分より有能な相手を戦などであからさまに排除しようとはなりませんし、できません。職場で自分の妬みの感情が誰かに知られれば、周囲からの評価や評判を自ら落とすことになりかねないからだというのです。そのような内なる感情と対峙するうちに、他者に対して「あなたが今、ここにいなければ私の欲しいものがもっと容易く手に入り、こんなに苦しむことも、イヤな自分を感じることもなくて済んだのに」と妬ましく、恨みや敵意さえも混じった感情を、心の内で盛り上げてしまうのです。

自分の力だけでは現状解決が難しいとき、しかも、欲しい資源が有限で手に入りにくいものだと思っているとき、あるいは競争状況にあるときほど、この感情と向き合わなければならなくなります。この状態は、決して心地好い状態ではなく、心理的な痛みを伴っています。まさに、アリストテレスが書き残している通り、妬みは「自分と同じような者が、恵まれた状態にあるのを目にすることで、心に生ずる一種の痛み」なのだと山浦氏は言うのです。

この妬みと脳活動との関連性について、検討した研究があるそうです。平均年齢22.1歳の19人の男女が集められ、あるシナリオを、主人公を自分自身に置き換えながら読むように伝えられました。この19人の男女であるシナリオの主人公は、学業成績、部活動、就職活動状況などは平均的な人物だという設定です。この実験の結果、自分との関連性が低く、平均的な能力の登場人物よりも、自分と関連性が高く、かつ、優れた能力や所有物がある登場人物に対して、妬みの感情を抱くことが示されたそうです。具体的に言えば、

・同性で、進路や就職先、ライフスタイルや趣味が共通している(自分と関連性が高い)

・優秀な成績で、部活動でも活躍している(優れた能力や所有物がある)

このような人に対して妬みを抱きやすいというわけです。

さらに、脳の賦活状態(活動のレベル)を観察してみると、妬みを強く抱いた人は、前部帯状回と呼ばれる脳の一部分が、強く反応していることが明らかになったそうです。この前部帯状回は、血圧や心拍数のような自律的機能、意思決定や共感・情動といった認知機能、そして、身体の痛みに関係していると考えられています。つまり、先にも述べた通り、妬みは心の痛みだけでなく、身体の痛みももたらすのです。心の状態と身体的な健康状態との密接なつながりを感じさせられる話です。

ちなみに、妬みの対象者に不幸が起きたときには、「ざまあみろ」の心(これをシャーデンフロイデと言います)が生じやすくなり、線条体と呼ばれる部分が活性化することも明らかにされているそうです。線条体が報酬系の部位であることを踏まえると、文字通り「他人の不幸は蜜の味」であると言えるのではないかと山浦氏は言います。さらに、前部帯状回の活動が強い人ほど、この線条体もまた強く反応したことが報告されているそうです。つまり妬みが強い人ほど、他人の不幸を喜ぶ「ざまあみろ」の心も強くなるというわけです。

自分自身が生き残り、よりよく生きるための自己利益を得るためには、優れた相手の存在を察知しておくこと、そしていつ脅威をもたらしてくるかアンテナを張っておく必要があるというのです。妬みの感情には、自分の資源を確実に保持するためのセンサーの役割と、自己防衛を図ろうとする機能があるようです。