しがみつき

山浦氏が説明した「しがみつきの行動」は、「一度保有すると、価値が高いものに見えてしまう」という、心理学で「保有効果」と呼ばれているそうです。この効果に関する実験で有名なのが、「カーネマンのマグカップの実験」だそうです。

行動経済学者のダニエル・カーネマンは、大学生たちをランダムに2つのグループに割り当てました。2つのグループは、「売り手グループ」と「買い手グループ」です。

・「売り手グループ」の目の前には、1人につき1個、大学のロゴ入りマグカップが置かれ、「いくらならマグカップを売るか」と希望の取引価格を間われます。

・「買い手グループ」は、隣にいる人のマグカップを見て、「いくらなら(自腹を切って)マグカップを買うか」と聞かれます。

ちなみに、この大学のロゴ入りマグカップ、通常は6ドルで販売されているものです。

実験の結果、「買い手グループ」が答えた平均価格は2.87ドルだったのに対して、「売り手グループ」が答えた平均価格は7.12ドルでした。

つまり、売り手は、買い手の2倍以上の価値をつけたのです。売り手と買い手の違いは、「既に自分が所有しているものか否か」「手放したくないという感情があるかどうか」だと考えられます。これらのことから、私たちには、一度手にした喜び、それによって見出した価値あるものを失いたくない、あるいは後悔したくないと思ってしまう傾向があるのだと、カーネマンたちは言っているそうです。

目の前の状況は、千載一遇のチャンスかもしれないけれど、不安や面倒さが先に立ちます。しかも、そのチャンスに飛びついたがゆえに、よくなるどころか、自分や自分の立場を揺るがすような状況に直面するかもしれません。自分の心を乱す、脅威的な相手に出会いやすくなるかもしれません。そうなったら、今までの自分や面子は、どうなるんだろうか…。

そのうちに、今はそうは悪くない、結構イケてるではないかと思えてきます。つまり“保有“は、現状を維持して安心を得ようとすることが優先された非合理的な行動選択だというのです。

私たちの非合理的な判断・行動の背後には、「自分が危険な状態や、脅威にさらされたときに生じる感情」があるというのです。

これらが、人間がついとってしまいがちな非合理的行動であり、この非合理的な行動や習慣は、感情によってもたらされるということなのです。その非合理的な行動に駆り立てる感情の中でも、もっとも厄介なのが「妬み」であるというのです。それゆえ、妬み(envy:ラテ語invidia)は、カトリックでは、七つの大罪の一つに挙げられています。七つの大罪とは、嫉妬のほかに、傲慢、憤怒、暴食、色欲、怠情、貪欲で、人を罪に導く可能性がある感情と考えられてきました。この七つの大罪を罰しようと犯罪を起こした映画に、ブラッド・ピットが主演した「セブン」という映画がありましたね。随分と、ショッキングな映画でした。また、七つの大罪をモチーフにした最も有名な文学作品もあります。ダンテの長編叙事詩「神曲(La Divina Commedia)」です。