人との距離

マレーシア航空のポーイング777型機が、ウクライナのクラボヴォ村の外れに墜落し、ブレグマンが、そのニュースを初めて聞いた時、あまり実感を伴いませんでしたが、その後、オランダの新聞を読んで、衝撃を感じたそうです。その記事は、カレイン・カイザー(25歳)とローレンス・ヴァン・デル・グラーフ(30歳)の写真から始まります。飛行機に乗り込む直前に自撮りした、巻き毛の女性とブロンドの男性の、とても幸せそうな写真です。記事によると、二人はアムステルダムのボートクラブで出会いました。ローレンスは、優れた学生新聞「プロプリア・クーレス」に執筆し、カレインはアメリカで博士号を取得する直前でした。

そして、二人は深く愛しあっていました。

「二人はいつもお互いに夢中で、いつも一緒にいる幸せなカップルだった」という友人の言葉が紹介されていました。ブレグマンは、新聞の7ページ目の、イラクでの残虐行為に関する記事は読み飛ばしたくせに、この二人の記事を読んで泣きそうになりました。偽善的ではないか、と彼は自問したそうです。往々にして、この種の報道は彼を悩ませるそうです。たとえば、船が沈没して、乗客全員が亡くなった時に、オランダの新聞は「二人のオランダ市民がナイジェリア沿岸で死亡した」と報じます。

そうは言っても、人間には限界があります。わたしたちは自分に似た人、同じ言語を話し、外見や背景が似通った人々のことをより気にかけます。ブレグマンも、かつてはオランダの大学生で、大学のクラブに所属し、そこでゴージャスな巻き毛の女性と出会ったそうです。また、学生新聞「プロプリア・クーレス」に寄稿するのが好きだったそうです。ローレンスの友人は、同紙の追悼記事にこう書いています。「ローレンスを知る人にとって、彼のパワフルな動きを止めるのに対空ミサイルが必要だったことは、驚くに値しない」。

亡くなる数時間前に、彼らが自撮りした笑顔の写真を新聞社に送ったのは、カレインの兄弟でした。「どうかオランダと世界に、わたしと姉妹と両親が経験している痛みを伝えてほしい。これはオランダの数百人の人々の痛みなのだ」と彼は記しています。

彼の言う通りでした。オランダ人の誰もが、その飛行機に乗った人を知っている誰かと知り合いだったのです。この時、ブレグマンは、オランダ人に対して、それまで抱いたことのない気持ちを抱いたそうです。なぜ、わたしたちは自分と似ている人のことを、より気にかけるのでしょうか。ブレグマンは、悪は遠くから仕事をすることを語っています。距離は人に、インターネット上の見知らぬ人への暴言を吐かせます。距離は兵士に、暴力に対する嫌悪感を回避させます。そして距離は、奴隷制からホロコーストまで、歴史上の最も恐ろしい犯罪を可能にしてきました。

しかし、思いやりの道を選べば、自分と見知らぬ人との距離が、ごくわずかであることに気づくだろうと言います。思いやりは、あなたに境界を越えさせ、ついには、近しい人や親しい人と、世界の他の人々が、等しく重要に思えるようになります。そうでなければ、ブッダは、家族を捨てたでしょうか。そうでなければ、キリストが弟子に、父と母、妻と子、兄弟と姉妹を置き去りにせよと説いたでしょうか。

もっとも、これらは極論と見なしていいだろうとブレグマンは言います。