未知の可能性

子どもたちはいろいろと違った環境の下に生きているのですが、子どもが自分の能力に対する考えを発達させるうえで、その社会の構造が重要な役割を果たしていると言います。自分を抑えて、言われたことをするようにと強制される学校のような環境では、それが極端になると、子どもたちは依存性が高く過度に控えめになり、その結果、学びたいとか働きたいという欲求を失ってしまうと懸念します。それとはまったく逆に、完全に自由に遊ばせ、好きなことをさせれば、子どもたちは混乱に陥ります。子どもたちが、自分は人の役に立つ現実的な仕事ができるのだということを発見できるようにしておく必要があるというのです。こうした達成感によって、彼らは自分自身の未知の可能性に気づくようになるとハート氏はいうのです。

コミュニティプロジェクトに関わりたいという子どもの欲求や、その能力を踏みにじる最大の要素は、自分自身に対する感情だとハート氏は考えています。これは、自分の属している社会階層や文化について、どう感じているかということと関係していることがたいへん多いと言います。ロバート・コールスは、アメリカ合衆国の貧しい家庭の子どもと一緒に行なった研究を通して、貧乏に加えて差別と無力感の経験が重なると、子どもの自分に対する感覚および何かを変える力が、どんなに打撃を受けるかを、明らかにしました。自尊感情が乏しい子どもは、自分の考えや感情をゆがめて伝えてしまう、防衛機制を発達させる傾向があるので、こういう子どもはグループに参画することがとくに難しいと言います。ブラジルのもっとも貧しい都市近郊で、「路上教育者」や、正規ではない学校や民間の学校の教師たちは、「貧困のなかで生活をしている子どもと一緒に活動する場合、まず彼らの心に自分が属する文化に対して強いアイデンティティを育てることが大切である」と、ハート氏に繰り返し説明したそうです。帰属の意識があってはじめて、子どもは自分のため、また自分のコミュニティのためによく働くことができる、と彼らは説明したのです。こういうわけで、子どもと一緒のプロジェクトでは、最初に音楽やタンスや劇を重視しながら、彼らの文化的なアイデンティティの表現を創り上げることに集中します。こういうイベントを創り出す過程で、子どもたちは、彼らの文化の歴史や貧困・差別のルーツに直面することになるのです。それはまさに、パウロ・フレイレが「意識化(conscientization)」と名づけたプロセスです。この機会に、子どもの参画において文化がどんなに大切な役割を果たしているか、ということを反芻してみるとよいとハート氏は提案しています。文化が違えば、労働を担う子どもの年齢や性別役割分担が違い、子どもたちを参画させるためのプロセスが違ってきます。一部の子どもが、遠慮して割り当てられたことをしないように見えるのは、子どもがもつ役割に対する期待が、文化によって違うことと関係があるかもしれないとハート氏は、考えています。

大人が期待しているほど、積極的に参画していないようにみえる子どもたちを、もっと本格的に参画させようとするなら、状況を確かめ、もっている力を表現する能力を最大限引き出せるような機会をその子に与える、という原則に従うことが大事であるというのです。これはさまざまな参画の方法と、多様な表現のメディアを使わせることを示していると言います。

未知の可能性” への6件のコメント

  1. 「自尊感情が乏しい子どもは、自分の考えや感情をゆがめて伝えてしまう、防衛機制を発達させる傾向があるので、こういう子どもはグループに参画することがとくに難しいと言います」とありました。なるほど、そのようなことがあるのですね。そのような人に対して、参画することを期待してしまうのもよくないですね。きちんとその人のことを理解して、捉えてあげないといけないのかもしれません。また「帰属の意識があってはじめて、子どもは自分のため、また自分のコミュニティのためによく働くことができる、と彼らは説明したのです」とありました。このことは大人でも感じます。その集団に属したいという気持ちがあれば、集団のために何ができるかということを考えて、自然と行動できるように思います。反対にそうでなければ、やはり自分勝手と思えるような行動を取るんだろうと思います。このあたりは職員集団にも当てはまることかなと思います。そういった意識をどのようにすれば高めることができるのでしょうか。最初からそういったものが薄い人もいるんだろうとは思いますが、気になるところです。

  2. 「コミュニティプロジェクトに関わりたいという子どもの欲求や、その能力を踏みにじる最大の要素は、自分自身に対する感情」であるというのは意外でした。外部からの影響による消極的行動が関連していると思っていましたが、最終的には個人の自分に対する感情のようですね。確かに、自己評価が低い、過小評価しすぎている人の行動傾向は主張が少なく、ネガティブな発言が多い印象です。また、新しいことにも消極的なイメージがありますが、そういったことが参画精神を踏みにじる要因となっていることを正しく理解しておかなくてはいけませんね。そして、「子どもの参画において文化がどんなに大切な役割を果たしているか、ということを反芻してみるとよいとハート氏は提案しています」ということで、文化と子ども参画との結びつきを繰り返し吟味して、年間行事予定に組み込むというプランニングの必要性を強く感じました。

  3. 「帰属の意識があってはじめて、子どもは自分のため、また自分のコミュニティのためによく働くことができる」とあります。このことは子どもには限らず、大人の関係性においても同様のことがいえますね。やはり帰属意識であったり、所属観といったものは自分のアイデンティティを生かすための価値観をもたらすということが見えてきます。また、こういった帰属意識をもたらすために大人の距離感が重要になってくるということが冒頭に書かれていました。「自分を抑えて、言われたことをするといった矯正される環境では、子どもたちは依存性が高く過度に控えめ」ということ、「逆に完全に自由に遊ばせ、好きなことをさせれば混乱に陥る」といったことを考えるとこのバランスは非常に難しいものですね。そのため、今行っていることが人の役に立つ現実的な仕事ができるのだということを発見できるようにしておくという環境を用意することはどの集団においても必要なことなのだと思います。他を意識した意識というのはとても大切です。まさにここで言われていることはマネジメントの内容ですね。こういった見守るといった距離感は結果としてアイデンティティを持たせ、帰属意識につながり、自律することで参画につながってくるということが見えてきます。この話は子どもの環境だけの話とは思えないです。様々な場面でこういった考え方をもった集団が増えると、世の中よくなっていくだろうなと感じます。

  4. このコメントを記すにあたっては、たいてい、自分の経験をもとに、あれこれと表現する癖が私にはあるようです。ですから、コメントが自己体験・経験の反芻記録になることもしばしば。今回もそうなるでしょう。さて、私はわが子がわりと自由に育って来たのではないかと思っております。まぁ、わが子に訊いたこともありませんし、わが子も、誰と比較して自由か不自由かと返答しますから、私のこの思いは極めて独断と偏見によるものです。「完全に自由に遊ばせ、好きなことをさせれば、子どもたちは混乱に陥ります。」この部分に反応した結果、以上のコメントになりました。私の母親にも「甘やかしすぎ」と何度も叱れました。しかし、だからと言って、ああしろ、こうしろ、ということも言えません。なぜなら、その母親父親に、ああしろ、こうしろ、と言われて私が育ったわけではないので。ところで「自分を抑えて、言われたことをするようにと強制される学校のような環境では」・・・我が家においては、この「学校のような環境」が功を奏したのでしょう。学校のおかげで、わが子は社会の規範を身に付けてくれたようです。なるほど、学校と家庭との間で何気にバランスがとれていたのだ、ということが今回のブログを読み進めていく中でわかりました。

  5. このコメントを書いている2月、すいすい組の子達の卒園まであと1ヶ月程になりました。クラスの先生たちと話していると「あの子はわいわいやらんらんの時と違って今はすごく成長して…」というお話を聞かせてくださります。わがままを言うことが減りとてもお兄さんお姉さんらしくなったというお話です。「子どもたちが、自分は人の役に立つ現実的な仕事ができるのだということを発見できるようにしておく必要がある」とありましたが、自然と誰かから頼られ、遊びやお当番の中で責任感や達成感が生まれる環境がせいが子ども園には整っていますね。最近は、朝の会やお帰りの会にすいすいの子達が紙芝居を読むことが流行していて、日々上達しているのが分かりますが、まだまだ個人差があります。それでも頑張って読み終えた彼らの表情は、自己有用感が満ちている様に見えます。そしてその聞き手に50人程の子達がいる訳ですが、たとえ聞こえづらくても耳を傾け”聞いてあげている”姿にとても関心させられます。

  6. 「コミュニティプロジェクトに関わりたいという子どもの欲求や、その能力を踏みにじる最大の要素は、自分自身に対する感情である」というのは、自主性といったところにつながってくるということでしょうか。こうした場面において、終わりにあった「もっと本格的に参画させようとするなら、状況を確かめ、もっている力を表現する能力を最大限引き出せるような機会をその子に与える」というのは、まさに原則で、子ども一人としっかりと理解しその環境を用意していくという大切さを改めて感じました。

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