切り離せない知識やスキル

様々な場面や文脈において、倫理的な判断を伴うのであり、そうした判断をする際の「指針」が必要になります。例えば、前述のデザイン思考を働かせていくうえでも、態度及び価値観は重要になってきます。デザイン思考のアプローチで問題を考えていくためには、例えば、その解決策が実際にうまくいくのか、ユーザーは何を必要としているか、今考えている解決策が社会的・文化的に適切なものと言えるか、解決策が審美的な観点から訴求力があるものなのか、といった様々な観点から考慮することが求められます。そのためには、ユーザーの視点で考えたり、相手の立場に立って考えるという態度が必要となりますし、社会的・文化的なコンテクストに沿った倫理的な判断が求められる場合もあると考えられます。

以上のように、コンピテンシーを発揮していくうえで、知識やスキルと態度及び価値観とは切り離せないのです。なお、こうした倫理的な判断については特にAIの普及との関係でより重要になってきますが、この点については後で白井氏は説明しています。

いわゆる「21世紀型スキル」においては、伝統的に重視されてきた知識や認知的スキルに加えて、社会・情動的スキルや態度及び価値観の重要性が改めて強調されています。しかしながら、歴史を振り返れば、知識とスキル、態度及び価値観を組み合わせようとする考え方は、決して新しいことではなく、様々な時代や文化においても、そのように考えられています。

日本人にとって最も身近なのが、「知・徳・体」という言葉であり、「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」とも表現されています。文部科学省が作成している学習指導要領の解説によると、「こうした力は、学校教育が長年その育成を目指してきた『生きる力』そのものであり、加速度的に変化する社会にあって『生きる力』の意義を改めて捉え直し、しっかりと発揮できるようにしていくことが重要となる。このため、本項において『生きる力』の育成を掲げ、各学校の創意工夫を生かした特色ある教育活動を通して、児童に確かな学力、豊かな心、健やかな体を育むことを目指すことを示している。なお、本項では(1)から(3)までにわたって、それぞれが確かな学力、豊かな心、健やかな体に対応する中心的な事項を示す項目となっているが、これらは学校教育を通じて、相互に関連し合いながら一体的に実現されるものであることに留意が必要である」としており、「生きる力」の具体的な内実が「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」であり、また、これらが「相互に関連し合いながら一体的に実現される」としています。

「知・徳・体」の一体的育成のような考え方は、「コンピテンシーの育成に向けた包括的なアプローチ」とも重なることになりますが、「徳、智(知)、体」を中核とする「三位一体」型モデルは、日本だけでなく中国や韓国においても共有されています。中国においては、「五育」として、「徳・智・体・群・美」という概念があるそうですが、中国の伝統文化によれば、「徳」が個人の最も重要な美徳と考えられており、それに「智(知識、知性)」と「体(身体的健康、体躯)」が続くものとされているといいます。こうした個々人に関することに加えて、「群(社会・集団における相互作用のスキル)」は集団の一員であることの重要性を示すものであり、また、「美(美学)」は、生徒が美術や音楽をはじめ、様々な文化の鑑賞を奨励するものです。