なぜ重要か

コンピテンシーの概念については、それが単に知識やスキルを獲得するということを超えて、複雑な需要を満たすために知識、スキル、態度及び価値観を統合的に動員していくことです。しかしながら、このことが強調されているということは、裏を返せば、今なお、教育の主目的が知識やスキルの獲得に置かれていて、態度や価値観が二の次とされてきたということでもあろうと白井氏は言います。ここでは、いったん立ち止まって、知識やスキルとの関係で、態度及び価値観がなぜ重要なのかを考えてみようと彼は提案しています。その理由としては、次に述べる2点を指摘しています。

第一に、態度及び価値観を獲得することが、知識やスキルの獲得に影響を与えることです。例えば、学習に対するモティベーションがなければ、知識やスキルの獲得が進まないことは明らかです。また、多様な考え方に対する開かれた考え方を身につけていたり、あるいは自己意識や自己コントロールなどを身につけていれば、その後の知識やスキルの獲得がより順調に進んでいくと考えられます。知識やスキルを効率的に身につけていくためには、これらの態度を早い段階で身につけることが重要となります。

また、態度の獲得は、知識やスキルの「転移」に対しても影響を与えると考えられます。例えば、プラジルのストリート・チルドレンを対象とした研究があります。ストリート・チルドレンたちの多くは、路上で商品を売っている際には基礎的な計算ができているのですが、学校において行われるような数学の間題となるとできなくなるといいます。とりわけ、数学の問題において文脈が与えられていない抽象的な間題の場合には、正答率が極端に低下するといいます。こうした結果からは、同じ計算というスキルにかかわることであるのにもかかわらず、それが用いられる文脈についての認識が異なることで、スキルがうまく発揮されないということになるのです。すなわち、スキルを発揮するための文脈や状況に関する認識の在り方が、耘移に大きな影響を与えるのではないかということが示唆されています。また、態度やふるまい、方略などが、どのような影響をもたらしているかについての文献調査によると、生徒が自分自身の能力についての認識や、将来の成功への期待、活動にどの程度の価値を見出しているかといったことが、モティべーンヨンや粘り強さなどに影響を与え、特に低学力層において学力の向上につながるといいます。

第二に、態度及び価値観は、コンピテンシーを発揮していく際の「指導原理」として機能します。このことは、とりわけAI技術が発達していく中で、特に人間に期待される力でもあるとされています。例えば、批判的思考力を発揮するということは、複数の選択肢について妥当性を評価したり、その中から最適と考えられる選択をするといった認知的プロセスですが、そうした判断は、何らかの基準にしたがって行われることになります。すなわち、様々な場面や文脈において、「何が正しいのか、正しくないのか」、「何が良いことなのか、悪いことなのか」といった倫理的な判断を伴うのであり、そうした判断をする際の「指針」が必要になるのです。