態度・価値観

では、2030年に求められる「態度及び価値観」はどのようなものがあるのでしょうか。既に述べてきたように、コンピテンシーを十分に発揮していくためには、知識とスキルだけでは不十分であると考えられています。例えば、移民の増加に象徴されるように、社会が多様化するにつれて、他者や他の文化に対する敬意や、公平、責任、誠実さなどが、これまで以上に重要になってくるでしょう。こうした側面を強調する動きは、知識やスキル以上の教育を目指そうとする「21世紀型スキル」の動向において、より重視される傾向にあるのは、既に白井氏は言っています。

実際、Education2030の一環として行われた、カリキ、ラムに関する政策質問票調査(PQC)に対する各国の回答によると、多くの国のカリキュラムにおいて、例えば、自分自身や他者、国家、多様性、環境などを大切にする気持ち、共感性、誠実さ、レジリエンスといった要素が教育の目標として挙げられています。また、カリキュラムの中で明示的に示されていないとしても、その国や地域における学校の文化や学習環境における様々な経験を通して、自然に一定の態度や価値観について学んでいくことになります。別の言い方をすれば、学校は.各国・地域の文化やアイデンティティを伝える機能を果たしてきたということだというのです。例えば、「望ましい行動に対する考え方が、どのように伝えられるか」、「生徒と大人の間で、合意形成がどのように行われるか」、「生徒の声が、どのように考慮されるか(あるいは、考慮されないか)」といった、学校における様々な経験・行動を通じて、各国・地域の文化やアイデンティティが継承されてきたと言うのです。

ところで、知識やスキルに加えて、態度や価値観も重要であるという「21世紀型スキル」に典型的に見られる考え方は、日本人からすれば、特段目新しい考え方とは言えないだろうと白井氏は言います。というのも、日本の教育では、伝統的に態度や価値観が重視されてきたからです。教育基本法が「人格の完成」(第1条)を教育の目的に掲げていることからはじまって、そもそも学校教育全体として「知・徳・体」のバランスの取れた育成が重視されています。また、学習指導要領においても、道徳科を中心として教育活動全体において道徳教育を行っていくこととしていますし、また、特別活動においては、他者との関係構築や自身の生き方や在り方について考えるなど、「21世紀型スキル」の特徴とも言える要素は、既にカリキュラムの中に位置づけられているのだというのです。各教科等の授業や学校行事、掃除や給食の時間、部活動などを含めて、学校教育は、日本人の態度や価値観の形成に大きな影響を与える経験として、伝統的に継承されてきたと言うのです。

もちろん、態度や価値観を重視しているのは、日本だけに限ったことではないようです。例えば、シンガポール教育省が示している21世紀型コンピテンシーの枠組みでは、その中心に置かれているのは「中核的価値観」であり、具体的には、他者に対する敬意、責任感、レジリエンス、誠実さ、ケア、調和といった概念が挙げられています。シンガポールの場合には、批判的思考力や創造性などの認知的な側面はもちろん、自己管理や自己意識、社会性、人間関係のマネジメント、責任ある意思決定などの社会・情動的な側面も含めて、一人一人を形作っていくうえでの全ての基盤になるのが、これらの「中核的価値観」とされています。