エピステミックな知識

エピステミックな知識の意義は、生徒が、学習した知識を実生活上の課題と結びつけて考えられるようになることであり、「真正の学び」を作り出すということでもあると言います。学習内容が、実生活や実社会とどのようにつながっているのかを理解することは、それぞれの学問分野における本質的な学びを意識させるとともに、学習に対するモティベーションの向上につながることも期待されるからです。従来の教育は、どちらかと言えば教科のコンテンツを教えることが中心であったかもしれません。もちろん、そのこと自体は否定されるものではありませんが、それぞれの教科が、現実的な課題解決にどのように役立っているかとか、専門家である数学者や歴史学者、エンジニアなどが、物事を考えるために必要な知識がどういうものなのか、といったことを教えることも重要です。

エピステミックな知識を深めていくためには、例えば、「この教科では何を学んでいるのか、また、それはなぜなのか」「この知識を、自分の生活において活用することはできるのか」「科学者だったらどう考えるか」「医師だったら、どのような倫理に従っているのか」といった問いに答えていくことが考えられると言います。そうすることで、獲得した知識が現実的な課題解決に必要かを理解することができるし、未来に向けて世界をより良くしていくためにはどうしたらよいかについても、より良く考えることができるようになるだろうと白井氏は言うのです。

日本の学習指導要領(2017年2018年改訂)では、「見方・考え方」を全ての教科・科目に設定しています。「見方・考え方」は各教科等に固有の視点や考え方であるとされています。この「見方・考え方」については、学習指導要領の整理では、資質・能力を獲得する上で「働かせる」ものであって、「見方・考え方」それ自体は資質・能力ではなく、したがって、学習評価の直接的な対象ともしないとされています。

一方、「エピステミックな知識」は、ラーニング・コンパスにおいては「知識」の一類型とされていますが、「見方・考え方」と、内容的にほぼ重なるものであると言ってよいだろうと白井氏は言います。本文で述べたように、各教科が実社会・実生活にどのように役立っているのか、各学問分野の専門家だったらどのように考えるのか、ということは、「見方・考え方」と「エピステミックな知識」の、いずれもが目指すところです。

例えば、高等学校学習指導要領解説(地理歴史編)では、歴史分野の見方・考え方について「社会的事象を、時期、推移などに着目して提え、類似や差異などを明確にし、事象同士を因果関係などで関連付け」て働かせる際の「視点や方法(考え方)」であると整理しています。すなわち、「時期、年代など時系列に関わる視点、展開、変化、継続など諸事象の推移に関わる視点、類似、差異など諸事象の比較に関わる視点、背景、原因、結果、影響、関係性、相互作用など事象相互のつながりに関わる視点、現在とのつながりなどに着目して、比較したり、関連させたりして社会的事象を捉えることとして整理したものである」(としています。これは、歴史の専門家が、社会的事象をどのような視点や考え方で捉え、考察しているのかということを明らかにすることで、生徒が、歴史の問題に対してどのように取り組んだらよいのかということを示そうとするものです。