転移

一般に、「近い転移」よりも「遠い転移」のほうが難しいと考えられるのは当然ですが、しかしながら、これまでの先行研究について包括的な文献調査を行ったところ、「遠い転移」の難しさは、そもそも、学んだことの転移が可能であると認識すること自体が難しいことにあるといわれています。すなわち、転移の前提として、既有の知識を新しいコンテクストに適用するためには、構造的・概念的な近似性を認識する必要がありますが、実社会において似た状況に直面した場合に、過去に学んだことと結びつけて考えようとすること自体が難しいといいます。特に、実社会における具体的な状況が、細かいディテールの部分も含めて、授業において教師によって設定された状況と異なる場合には、実際の状況と既有知識との関連性について認識すること自体が難しいと指摘されているそうです。そうなると、「遠い転移」を可能にしていくためには、生徒が、既有知識と新たな状況の間の概念的な近似性や構造的な近似性を見出すように、教師が支援していくことが重要になってくるのです。そうすることによって、当初は生徒が「遠い転移」と捉えていたものも、「近い転移」として認識することができると考えられます。

転移を考えるに際して、ある場面で学習した「原理」の転移だけでなく、そこで学んだ原理を他の場面においても活用することができるような「性向」を転移させることも重要であると言います。例えば、重力などの科学に関する原理が様々な場面で適用できることを理解することはもちろん重要ですが、同時に、科学の授業だけでなく日常生活の場面においても「科学的に考えるようになること」が重要であり、そうした「性向」の転移についても併せて考えることが必要になるというのです。

この「近い転移」、「遠い転移」の考え方は、カリキュラムをデザインするうえでも参考になると考えられており、実際、 OECDが検討しているカリキュラムのデザイン原理の一つとしても、「転移可能性」が挙げられています。すなわち、多くの国がカリキュラム・オーバーロードに直面している中で、一定の優先度をつけてカリキュラムに含まれるコンテンツを精査していくことが求められていますが、その際の判断基準として、より転移可能性が高い知識はど、カリキュラムをデザインする際に優先して扱うということは考えられるだろうと白井氏は考えています。とりわけ、複数の教科や単元にまたがって「遠い転移」が可能な知識については、カリキュラム・オーバーロードの問題を軽減したり、より深い理解につなげられる可能性があると考えられるのです。

では、教科横断的な知識を育成するためのカリキュラム上では、どのような工夫があるのでしょうか?

Education2030プロジェクトでは、教科橫断的な知識を育成するためのカリキュラム・デザイン上の工夫として、以下の5つのアプローチを例示しています。

まず、「キー・コンセプトやビッグ・アイディアに関する学習」です。キー・コンセプトやビッグ・アイディアは、一般に、各教科などにおける中核的な概念のことをいいます。詳細なコンテンツの一つ一つを学習するというよりも、幅広い転移可能性をもつ概念を重視することで、表面的にコンテンツを理解する学習から、より教科の本質を理解した学習への転換を図っていくということが考えられます。