教科の知識

「教科の知識」が他の学習の基盤になるとしても、そのことは、「教科の知識」が固定的で、変わらないものであるということではないと言います。実際、「パワフルな知識」の重要性を強調するヤングにしても、知識は常に不完全で、更新されるべきものであるとして、「パワフルな知識」が固定的なものとして捉えられないようにすべきと指摘していることには留意が必要であると白井氏は言います。「教科の知識」が「パワフルな知識」であり続けるためには、その不断の見直しが求められるということだというのです。

よりVUCAとなる2030年の世界において、複雑化する問題に対して様々な解決策を見出すためには、各教科の学問分野を越えて考えたり、「点と点をつなげること」が必要になってきます。教科横断的な知識が重要なのは、それらが、各学問分野の原理や概念、コンテンツを、別の学問分野の原理や概念、コンテンツと関連づける知識であるということにあります。すなわち、教科横断的な知識を獲得することで、ある知識を他の分野へと転移させることが可能になるのだというのです。

そのための工夫の一つとして、例えば、インターナショナル・バカロレア(IB)の中等教育プログラム(MYP)では、教科の中だけでなく、教科を越えて学習していく「キー・コンセプト」を設定しており、「変化」「つながり」「発達」「論理」「システム」などの重要な概念について、「数学」と「科学」であったり、あるいは「科学」と「社会」といった形で、教科横断的に学習することで、これらのキー・コンセプトを通して各教科をより深く理解することが期待されているというのです。

もっとも、注意しなければならないのが、教科横断的な知識は、あくまでも教科の知識の基盤の上に成り立ということです。例えば、前述のヤングも教科横断的な学習の意義自体は認めながらも、ICTスキルや創造性、持続可能性といった形で、カリキュラムを教科横断型にデザインすることの危険性について注意喚起しています。すなわち、重要なのは、知識の断片ではなく、構造化された知識であって、そのためには、カリキュラムが、各教科の学間原理(ディシプリン)に基づいた順序性や体系性、学習の過程に照らして適切なものとなっていることであり、そうした観点に留意することが求められるのだというのです。教科横断的性格を重視するがあまり、各教科の学問原理にあるべき厳格性や一貰性が失われてしまっては本末転倒となる可能性があるというのです。

さて、教科横断的な知識が特に重要なのは、それが「転移」を促進するからであるといいます。「転移」とは、「あるコンテクストで学んだ知識や手続を、別の新しいコンテクストに適用させる能力」などと定義されますが、一般に、既に学んだことを、新しい場面や文脈で使えるようになることを意味します。

もっとも、生徒がある教科で特定の思考パターンを学び、それを別の場面や文脈に転移させるとしても、その態様は様々です。もともと学んだことと、比較的近い文脈や場面であれば、転移は比較的容易でしょうし、逆に、大きく異なる文脈や場面で適用する場合には、転移させることは、難しくなると言います。Education2030プロジェクトにおける議論では、前者を「近い転移」、後者を「遠い転移」と呼んで区別しているそうです。