知識の類型

ところで、「教科の知識」というと、例えば、数学の公式や定理など、何か固定的な内容をイメージしがちですが、それらは決して固定的なものではありません。生徒が学習する教科固有の概念にしても、個別のコンテンツにしても、その時々の社会において価値が認められている知識やスキル、態度・価値観に影響を受けることになります。例えば、現代の社会や経済に影響が大きいトレンドの一つに、 AIの急速な発達がありますが、AIに関するリテラシーなどは、これからの時代においては必須であると指摘されています。AIの普及とその社会的な影響によって、従来は必ずしも必要とされてこなかったAIに関する知識が、これからは「教科の知識」として、誰もが身につけるべき知識と位置づけられるようになり得るということだというのです。

これに関連して、ヤングは、「パワフルな知識」とう概念を提唱しています。ここで言う「パワフルな知識」とは、「より良い知識、より信頼のできる知識、世の中の真理により近い知識であり、学校が生徒に取り組ませ、また獲得させる主な目的である知識のこと」であると言っています。知識の中にも、当然様々なものがあります。「パワフルな知識」の意義は、それが各学問分野の原理を反映したものであり、それゆえ、専門的・体系的な理解に基づいたものであり、また、各学問分野における真理の追求の手続を経た知識ということになります。だからこそ、単なる知識とは違って信頼できる、価値ある知識だということになるというのです。一般に、こうした知識は、単に家庭での生活だけでは学ぶことができず、学校教育を通じて生徒に身につけさせる必要があるというのです。

しかしながら、ヤングのように「教科の知識」の重要性を強調する意見がある一方で、「教科の知識」に対しては、実社会では必ずしも直接役立たないという批判が常につきまとうことも事実であるというのです。しばしば、そうした批判の前提にあるのが、「教科の知識」を暗記中心の学習と提えている古典的な教育観だというのです。しかしながら、近年、各国のカリキュラムにおいては、キー・コンセプトやビッグ・アイディアなどの形で、各学問分野においてどのような考え方をするか、ということが重視されるようになってきています。カリキュラムを通して、こうした学問的なアプローチの方法を身につけることで、様々な学問分野における思考パターンを体系的に身につけることが期待されているのだというのです。

なお、「教科の知識」が全ての知識の類型の基盤となるということは、「教科の知識」の獲得が、教育における公平や学習機会の保障を意味することにもなるというのです。別の言い方をすれば、「教科の知識」が、新しい知識を身につけたり、教科横断的な知識やエピステミックな知識、手続的知識を獲得していくための基盤となる以上、これが欠落している場合、その生徒は将来の可能性が奪われてしまうことにもなりかねないと言います。全ての生徒に、その時代や文化において必要とされる「教科の知識」を身につけさせることは、生徒を、 これからの教育を受けていくためのスタートラインに立たせるという意味をもつのであり、そういった意味でも、教科の知識は2030年においても引き続き不可欠なものであることは変わらないでしょう。