ウェルビーイングへ

実行可能性や参加国の地域バランスの考慮などの面で批判があるとしてもDeSeCoで示された考え方自体は、2030年の未来でも通用するものとして肯定的に受け止められていました。そのため、Education2030プロジェクトでは、DeSeCoのキー・コンピテンシーを否定するのではなく、それを2030年という時代背景を踏まえて更新していくことが目指されたのです。例えば、AIの発達や移民の増加によって、キー・コンピテンシーも変わっていくことが求められるのであり、それを具体的な形にしたのが「変革をもたらすコンピテンシー」なのです。これについては、あとで説明しています。

上述のように、 DeSeCoにおいても、「人生の成功」や「良好に機能する社会」という視点を通じてキー・コンピテンシーを考えてきたのですが、それらは抽象度の高い概念であり、必ずしも明確ではない側面もありました。そこてコンピテンシーを身につけていく先にある目標として想定されたのが、「ウェルビーイング」という考え方です。

実は、Education2030プロジェクトの議論が始まった2015年前後は、OECD自体も、その目指すべき目標について変革期を迎えていたのです。その名称である「経済協力開発機構」が示すとおりOECDは各国の経済発展を目的として設立された組織であり、歴史的にも、 OECDの前身であるOEEC (欧州経済協力機構)は、第二次世界大戦後の欧州の経済復興を目的として設立された国際機関でした。そのため、過去には、OECDにおける教育関連のプロジェクトも、経済に資するための教育という側面が強いとの批判が示されることもありましたが、近年ではOECDのミッション自体が、単純な「経済的成長」から「包括的成長」へと変わってきています。それでも、現在でも、OECDからの提案は、保育研究者の中には、経済的成長からの視点であると批判したり、警戒する人はいます。しかし、こんな考え方に変わってきています。OECDでは、従来の「経済的成長」の指標とされてきたGDPなどに着目するだけでは、仮に、 GDP自体の増大が見られたとしても、その陰で貧困などの問題が拡大していくといったことも十分に考えられます。こうした格差などの問題にも配慮しながら、全体としての成長を目指していくことが、現在、OECDが目指そうとしている「包括的成長」の含意するところだというのです。

実際、OECDが設立50周年を迎えた際に、新たに改訂されたOECDのミッションを示す標語は、「より良い暮らしのための、より良い政策」です。この標語が象徴的に示すように、現在のOECDのミッションは、単に「経済的成長」を目指してGDPなどの経済指標を高めることだけではなく、究極的に人々が心身共に幸せな状態(ウェルビーイング)を作り出すことへと移行しているのです。実際、その象微とも言えるのが、OECDが開発した「より良い生活のための指標(Your Better Life lndex)」であり、OECD事務総長のアンヘル・グリアは、「以前から、世界中の人がGDPを超えた(指標)を求めている。この指標は、そのために作られたものであり、『より良い暮らしのための、より良い政策』を進めていくうえで、大きなポテンシャルをもっている」と語っているのです。