キー・コンピテンシーの見直し

キー・コンピテンシーが理論的・抽象的過ぎて、教室での実践やカリキュラム作りなどの政策立案に具体的な形で活用できず、実行可能性に欠けるという点が課題に挙げられています。実際、DeSeCoにおけるキー・コンピテンシーの特定に至るプロセスも、「社会学、心理学、哲学、経済学、歴史学、人類学などの異なるディシプリン(学問分野)と、それに伴う学際的で多様な関係者との意見交換に基づいた、学術的理論に基づいた演繹的アプローチ」に基づいて行われていますが、裏を返せば、行政官、学校の管理職や教師などの実務家はもちろん、生徒や産業界などの関与も限られたものとなっていました。結果的に、理論的には評価されながらも、キー・コンピテンシーを学校での授業改善や様々な政策の企画立案に生かしていくという点では、必ずしも十分ではなかったと考えられるのです。

第二に、キー・コンピテンシーの策定が、実質的にヨーロッパやアメリカ、オーストラリアといった特定の地域や国の研究者を中心にして行われたことだと言います。プロジェクトの途中では各国からの参加手続きも行われるなど幅広い意見募集に向けた努力も行われましたが、結果的には、参加したのは、オーストラリア、ベルギー(フランドル)、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、スイス、アメリカという12か国であり、研究者と同様に、ヨーロッパ諸国を中心とした限られたものであったのも事実であると白井氏は言います。

Education2030プロジェクトでは、DeSeCoに対する批判を乗り越えようと、プロジェクトの実施に際して、上述のような課題を克服するための様々な工夫を行っているそうです。DeSeCoに対する批判の第一点である実行可能性の不足という指摘に対しては、単にキー・コンピテンシーを定義し直すだけではなく、コンピテンシーの育成につながるような具体的な方策についても、併せて検討を進めることにしているようです。2015年から2018年の第一期では、キー・コンピテンシーの育成につながるカリキュラムの設計について、 2019年から2022年の第二期では、評価(assessment)、教育法(pedagogy)、学校のマネジメントなどについての調査研究を行っています。こうした研究を採り入れることによって、各国の行政官や教師、学校管理職などにとって、具体的に実行可能なコンピテンシーの枠組みの策定を目指そうとしているのです。

また、批判の第二点についても、中国などOECD非加盟国に対してもプロジェクトの門戸を開くとともに、世界全体で見た際の地域パランスにも配慮して、例えば、運営理事会における理事の出身国も、デンマーク、アイルランド、日本、オーストラリア、韓国、ポルトガルなど各地域の国がバランス良く加わることとなりました。同時に、様々な関係者の意見を重視することとして、各国の行政官や研究者だけでなく、教師を中心とした学校のネットワーク、企業やNGOなどの社会的パートナー、学生・生徒グループとの意見交換も行うこととしたのです。なお、会議運営の場においては、例えば、各国の行政官同士など、同一の立場に属する者同士の率直な意見交換の機会も重要である等の意見も出されたようです。そのため、こうした多様な参加者はフォーカス・グループと呼ばれるグループに分けられ、議題に応じてフォーカスグループごとに同質な集団で議論をしたり、あるいは多様な参加者と議論をしたりするなど様々な運営上の工夫が行われることとなったのです。