ノーマルから

白井氏が、こうした社会経済的なメガ・トレンドについて見てきたのは、変化を踏まえることが、 2030年において必要となるキー・コンピテンシーを考えるうえで必要とされたからだというのです。彼は、未来を正確に予測することはできないとしても、現時点で生じつつある変化のトレンドから、将来を考えることはできると考えています。そして、将来起こり得る状況を可能な限り想定したうえで、例えば、地球温暖化の進行やテロリズムなどの課題が想定されるのであれば、それらを防ぐために必要なコンピテンシーがどのようなものかを考えていくことが求められるというのです。そのことは、「私たちが実現したい未来」を作っていくために、どのようなコンピテンシーが必要となるのかを考えるということでもあるのです。エージェンシーや、変革をもたらすコンピテンシーなど、ラーニング・コンパスで盛り込まれた考え方の形成に至る議論は、以上のような分析のうえで行われたものであるようです。

ところで、近年「ニュー・ノーマル(新常態)」という言葉が、様々な領域で使われるようになっているそうです。「アブノーマル」ではなく、「ニュー・ノーマル」というところがいいですね。もともとは、2008年の世界金融危機の前後で、従来「ノーマル」ではなかったものが「ノーマル」になる状況を示す言葉として、主に経済の文脈で使われてきた言葉だそうです。これもまた、VUCAという時代を迎えて、面白い考え方ですね。教育分野においても、従来は「ノーマル」とは考えられなかったものが、急速な社会変化に伴って「ニュー・ノーマル」になることが十分に想定されるというのです。既に多くの国や地域の学校で、「ニュー・ノーマル」な教育の萌芽が見え始めているそうですが、OECDが示しているEducation2030プロジジェクトの説明資料を参考にして、「ニュー・ノーマル」における教育と伝統的な教育とを比較して、概ね次のように白井氏は整理しています。

「教育制度を単体として捉える」から「教育制度をより広いエコシステム(生態系)において捉える」ようになり、「一部の選ばれた人による意思決定」から「より広い関係者による意思決定」になり、「役割分担」は、「責任の共有」となり、「インプットとアウトカム」は、「インプット、プロセス、アウトカム(特にプロセスの重視)」となり、「生徒の直線的な発達を前提にした、標準化されたカリキュラム」から、「“学習のための評価”“学習としての評価”を含めた広義の評価」にかわり、「説明責任とコンプライアンス」から、「システムの改善のためのフィードバック」となり、「(教師の指示の)聞き手としての生徒」から「能動的な参加者としての生徒。生徒、教師それぞれがエージェンシーを発揮」するという教育に変わると言うのです。この変革は、当然、乳幼児教育にも言えることで、私たちは、それぞれの項目を乳幼児教育に当てはめ、就学前としてどのような保育を行っていくべきかを考えることが必要になってくると思います。今までなんとなく考えてきた保育カリキュラムが、ニュー・ノーマルになると考えると、その改革はそう簡単にはいかないでしょう。特に、この考え方が求められてきたのが経済の文脈からということで、ノーマルを重視する傾向が強い教育界では、難しいでしょうね。今回の新型コロナにおける世界的な感染が、それを促進してくれるといいのですが。それは、今後の課題として、まず、この比較に基づいて、ニュー・ノーマルの教育では、伝統的な教育と何が異なるのかを、白井氏は考察していきます。