第2、第3の論点

第二の論点が、社会的スキルや情動的スキルをどのように整理するかということです。DeSeCoにおいては、「自律的に行動する力」、「道具を相互作用的に用いる力」、「異質な人々から構成される集団で相互にかかわり合う力」の3つが、キー・コンピテンシーの柱として位置づけられています。このうち、「自律的に行動する力」は個人の内面に関すること(intra-personal)、「異質な人々から構成される集団で相互にかかわり合う力」は人と人との関係に関すること(inter-personal)として考えられていました。こうした整理を踏まえて、Education2030プロジェクトにおいても、プロジェクトの初期の段階においてコンピテンシーを“intra-personal”と“inter-personal”に区別すべきか検討が行われたそうです。しかしながら、対人関係に関することであっても、例えば、自分の感情をコントロールしたり、モティベーションを維持するといったような個人の内面に関するコンピテンシーは必要です。そのため、対人関係に関することと個人の内面に関することを明確に区分するのは難しいとの指摘が出されました。実際、コンピテンシーを“cognitive”、“intra-personal”、“inter-personal”の3つのドメインに分類して捉えている全米研究評議会の報告書においても、「21世紀型スキルを理解し整理するために3つのドメインに分類してはいるが、それらが人間の発達や学習において相互に絡み合っているものであることは認識している」とも述べられています。こうした議論を経て、Education2030プロジェクトにおいては、コンピテンシーを“intra-personal”と“inter-personal”に分けて捉える形での整理は行わないこととなったそうです。

第三が、態度などに関する側面を整理する際のラベリングの仕方についてです。態度という軸が設けられていますが、態度は一定の道徳や倫理に基づいて表出されるものでもあることから、問題になったのは、道徳や倫理を含めた価値観を、態度などに関する側面のラベリングにおいてどのように考えていくかという点だったそうです。また、「態度」ではなく、キャラクターという言葉が用いられていますが、キャラクターには、学習によって変えることが困難な、あるいは先天的な性格、という意味合いが強いことから、この用語を使用することについての懸念が示されました。議論の過程において、“character qualities”(人格的資質)などの用語が提案されたこともあったそうですが、これもキャラクターと本質的に同じ問題があるとして、最終的に、態度(attitudes)に価値観(values)を加える形で、「態度及び価値観(attitudes and values)」という言葉で合意を得たところだそうです。

こうした議論を踏まえて検討を進めた結果、2016年5月に行われた第二回IWGにおいて、当時は「ロープ・モデル」なとと呼ばれていたモデルが示されました。この時点で知識、スキル、態度及び価値観の3つのドメインに基づくコンピテンシー・モデルの原型がある程度示されていたことがわかると白井氏は言います。この時点ではコンピテンシーの要素を集めたうえで、いったん風呂敷の上に広げてみることが目的でしたので、後に出てくるような、2030年という未来を形作るために必要な「変革をもたらすコンピテンシー」や「エージェンシー」など、様々な要素を統合的に用いていく形でのコンピテンシーに関する考え方は、この段階ではまだ出されていないようです。

ロープ・モデル

第2、第3の論点” への3件のコメント

  1. 3つのドメインとして分類されいる項目であっても、それらは相互に関連しあっているという見方になるものの、最終的には「“intra-personal”と“inter-personal”に分けて捉える形」であったり、キャラクターを「態度及び価値観(attitudes and values)」という言葉で合意を得た」というように、これまでの認識上の問題点を一旦整理してきたという、Education2030に至るまでの背景を知ることができました。それが、「いったん風呂敷の上に広げてみることが目的」ということであったための過程になるようですね。変革を起こすというのは、ただ新しいことをすれば良いということでなく、これまでの経緯を知り、その背景にあった問題やこれから起こり得る問題へのアプローチも含め、やはり使う労力の大きさを感じます。しかし、この頑丈な礎を構築する作業が、その後の政策や企画の底力となっていくのだろうなぁとも想像できます。

  2. 言葉が与える印象というのは難しいですね。曖昧なものすぎると伝わりにくいですし、同じような言葉でも与える印象が違うものがあったりと、難しいですね。そういったことを考えながら、まとめていくという作業も非常に高度な非認知能力などが必要なんだろうと思えてきます。日本の行政においてもそうですが、そういった力を持ち合わせていないと、ルールを整備するということは難しいそうですね。「対人関係に関することと個人の内面に関することを明確に区分するのは難しいとの指摘が出されました」とありました。まさに本質であるように思います。人の能力を個別に取り出して分類するということは困難ですね。それはやはり個別に取り出すことができないからなのでしょうね。だからこそ、細かい指導計画などがなかなか意味をなしえないというのは納得させられます。

  3. 今回のブログで紹介されている、第二、第三の論点整理も面白いですね。第2番目の「社会的スキルや情動的スキル」は非認知能力に関わるスキルなので特に関心がありました。中でも、新たに学んだことは「コンピテンシーを“intra-personal”と“inter-personal”に分けて捉える形での整理は行わないこととなった」というところです。米国の心理学者ハワード・ガードナー提唱の多重知能理論が「対人知性」「心内知性」として示したものを「対人関係に関することと個人の内面に関することを明確に区分するのは難しい」という点で分けなかったことについてはもっと知りたいところですね。まぁ、個人は個人で成り立つわけではなく、他者との相互作用によってしか成り立たないという面を考えならば、さもありなん、というところでしょう。個人の情動のコントロールも他者との関係において成り立つ能力ですから。第三の論点のcharacterを用いないという議論もおもしろいですね。Valuesが登場してきた意味がわかってすっきりしました。

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