共同エージェンシーは、まさに他者との関係の中で成長していくことであり、コンセプト・ノートにおいても、「親や教師、コミュニティ、生徒同士の相互作用的、相互に支援し合うような関係性であって、共通の目標に向かう生徒の成長を支えるもの」とされており、「教師や生徒が、教えたり学んだりする過程において共同制作者となった時」に生じるものとされています。
もっとも、一昔前のステレオタイプな教師像を前提にすると、教師は、主として知識を伝達するための存在として考えられがちです。しかしながら、生徒のエージェンシーを育んでいくためには、当然、教師が一方的に指導するということではなく、教師と生徒が、お互いに教えたり学んだりするプロセスを、一緒に作っていく関係性が重要になります。もちろん、教師は、自らの専門性や経験に基づいて、カリキュラムに沿って授業を展開していくことになるのですが、その際、授業の在り方を一方的に決めるのではなく、教師と生徒が一緒に考え、 作り上げていくというプロセスが重要になってきます。そうしたプロセスを経ることによって、生徒は、何のために学習するのかという目的意識を得ることができるようになりますし、自分の学びを自分で決めるという学習に対する当事者意識をもつことになります。
共同してエージェンシーを伸ばしていくためには、教師自身も、これまで以上に成長していくことが求められます。教師が、「自分たちの職業人としての成長を目指すということに加えて、同僚の成長にも貢献するということを、目的かつ建設的に行うこと」が重要であり、エージェンシーのある教師は、「学習機会に受動的に応じていくというよりも、自分たちの職業的な成長であるとか、目標に向けた学習に関する選択を行うことを意識している」といいます。そのためには、生徒のエージェンシーを支援するような学習環境をどのようにデザインしていくかについて、各種の研修機会などを含め、様々な形で教師を支援していくことが必要になると言います。
もちろん、生徒の学習の場は、学校だけに限られているわけではありません。共同エージェンシーの育成については、教師と生徒の関係だけではなく、家族や友人、コミュニティの人々も深くかかわってくると考えられています。ところが、教師以外の人々の場合、家族であっても、自らが生徒のエージェンシーの育成にかかわっているという意識が希薄な場合も多いのが実態でもあるでしょう。その意味でも、生徒をとりまく様々な人々が、共同エージェンシーの意識をもって、生徒と協働していくことが重要であると言います。実際、生徒だけでエージェンシーを育てていくことは難しいのであり、自分たちの行動や発達を「一緒に管理していく」よう、大人と力を合わせていくことが求められています。教師はもちろん、家庭やコミュニティの大人たち全体が、広く生徒のエージェンシーを育てていくことについて、責任を共有していくことが期待されるのです。
生徒の周りには、教師、友人、地域の住人をはじめ、様々な人がいますが、その中でも、とりわけ重要なのが、親の果たす役割です。一般に、思春期に入ると家族よりも友人との関係がより重要になり、それ以降、成長するにつれて親の役割は低下すると考えられがちです。しかしながら、生徒は親から多くのことを学びますし、また、親と一緒に学ぶこともできるのです。