トゥルネン

歴史的な経緯でいえば、高松氏の紹介したTSG1899ホッフェンハイムという「体操クラブ」が現在のスポーツクラブのはじまりのようです。柔道はもともと武士の接近戦の技術だった柔術を、嘉納治五郎という人が教育体系として整理し、柔道というかたちに換骨奪胎しました。高松氏は、やや乱暴な比較だと言いながら、それとよく似ていて、トゥルネン(体操)もフリードリッヒ・ルードヴィッヒ・ヤーン( 1778~1842年)という人がその礎を作りったそうです。

今日、日本で行われているスポーツクラブの議論と比べると、ヤーンがトゥルネンを始めた理由はかなり驚きだと言います。19世紀初頭、ドイツの隣国フランスのナポレオンがヨーロッパでの戦争で勝利を収めていました。そしてプロイセンは負けた側でした。こういう状態に陥ると、メラメラと燃え上がってくるのが愛国心です。同一の言語や文化を持った国民による国家(国民国家)という考え方も出てきます。新しい国家建設に向かうナショナリズムが強くなり、政府でもそういう機運が高まりを見せます。こういう時代の中、ヤーンが展開した「トゥルネン運動」には心身を鍛え、強い民族を作るというような指向があり、伝統や愛国心といったものを重視したのです。

ヤーンを教育者としてみると、理性的で、人間的な感性を持ち、自立的な人間を育てるのが大切という考え方を持っていたそうです。そのためトゥルネン(体操)は調和を考慮したような運動が想定されていると言います。具体的には鉄棒、平行棒、あん馬、平均台といったものを利用した運動がよく知られています。

他にも「黒い男を怖がっているのは誰?」と高松氏が訳した鬼ごっこを複雑にした運動遊びなども行われていました。こういう遊びを一緒にすると、一気に精神的な距離が近づきます。出自が異なる体操家同士の平等な人間関係を強めるような目的もあったのではないかと言います。ちなみに、この遊びは今日でもよく行われているようです。

ほかにもトゥルネン祭やハイキングなどいろいろなことをしているようです。ハイキングというといかにも今日のレジャーというイメージがありますが、徒歩による小旅行という感じではないかと言います。そしてドイツにまつわる歴史記念碑などを訪ね、愛国心を高めていくようなことが行われていたようです。

愛国心や郷土愛とは何かというと、感情に基づくものだと高松氏は言います。その感情は美しい自然風景や記念碑、歴史的な場所などから触発され、導き出されると言います。トゥルネン運動におけるハイキングもそういったかたちのものだったのではないかと言います。さらには他の体操家仲間を訪ねるとか、読書会、討論会、演劇などもしていたそうです。

オペラ座

ちなみに、ドイツ社会で演劇は思いのほか身近で、教会で子どもたちが行ったりしますし、小さな村でも有志の演劇のグループなどがあるそうです。余暇や楽しみという面もありますが、教育機能をはじめ、社会や政治を表現することで議論を促進するといった役割もあるようです。そのせいか、スポーツクラブのなかには演劇のグループを持っているところもあるそうです。

トゥルネン” への4件のコメント

  1. なんだかドイツというのは非常に日本と似ているような感覚を持っているのかなと思ってしまうような内容でした。日本的な身体感覚という概念がドイツにもあるのではないかと思ってしまいます。やはり、まずは身体を動かしていくということですね。子どももそうですが、頭で考えるのではなく、体を動かすことを繰り返し、試行錯誤し、学びを深めていく存在だと思います。このことが学びの本質であると思いますが、そういうものがドイツにおける体操にもつながっているのかなと勝手に想像しました。そして、やはり日本もそうですが、戦争の影響は現代でも様々なものを作っているのですね。日本も石油だけに頼らない、エネルギー開発をここまで推し進めたのは石油を輸入できないようにされた先の大戦の影響なのでしょうか。国の歴史を知ることの大切さも感じました。

  2. 「愛国心や郷土愛とは何かというと、感情に基づくものだと高松氏は言います。その感情は美しい自然風景や記念碑、歴史的な場所などから触発され、導き出される」という言葉が印象残りました。他国を訪れた際、自国の歴史や郷土愛に関心が強い若者が多かったです。それは、地域の中にある美しい風景や記念碑、歴史的建造物などが保全され、それを大切にするような精神がそこにあったことによって育まれたものが愛国心や郷土愛であるということが強く感じられました。日本人の若者に、「自分の国は好きですか?」と聞いたら、どれくらいの人たちが「好きです」と答えてくれるでしょうか。それには、やっぱり異文化や他国を知らないと判断がつかない、そして、良さに気が付かない気がします。

  3. 国旗や国歌で愛国心、というどこかの国とは異なる郷土愛のかたちをドイツから学ぶことができます。「ドイツにまつわる歴史記念碑などを訪ね」「美しい自然風景や記念碑、歴史的な場所などから触発され、導き出される」ということだと私も考えます。国旗や国歌では愛国心や郷土愛は生まれないと思うのです。日本の豊かな自然を目にする時、この国に生まれてきて本当に良かったと思います。日本の歴史を紐解いては、そして伝承され今日においてなお息づいている文化に触れては、その素晴らしさを称揚すると同時に、その環境の中で生まれ育ってきた光栄に感謝する気持ちでいっぱいになるのです。地域を思う、社会への貢献のかたちを考える、そして住んでいる国を愛する。愛国心なり郷土愛は「理性的で、人間的な感性を持ち、自立的な人間を育てる」中から培われていくものではないでしょうか。

  4. 初めて聞く「トゥルネン運動」でしたが、読んでいると藤森先生が行っているさまざまなことが浮かびました。自分が初めて当時の新宿せいが保育園さんにお邪魔させて頂いた時も、高田馬場を歩きながらいろいろなところを案内してもらったのを覚えています。スポーツクラブといっても、スポーツだけをするのではなく、さまざまなことを経験していくのはスポーツクラブの目的によるものだということを感じます。

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