教育政策にとって、学校システムの地方分権化を推進する勢力と中央集権化をめざす勢力との間の非生産的な論争を乗り越えることが重要であると言います。その議論は、教育のどの側面がどのレベルの教育システムで管理されるべきかという本質的な問題から目を逸らしがちです。また、学校システムの各層がどのようにして生徒や教員を支援できるかを自間していくという補完性原理を損ないます。
それはまた、教員、学校、地方自治体が、カリキュラム開発、シラバス、テストと教育基準に関する機能には、多くの資源が必要だと認識していることでもあります。それゆえに、これらが機能するためには、ある程度の中央集権化が進められてきました。それが正しいかどうかを見極めるためには、全ての生徒が利用可能であり、ワールドクラスの教育基準が緻密なカリキュラムに反映され、教員や教科書出版社の力を引き出すような一貫した教育システムが必要です。
学校や地域が教室で何を教えるかを決定する教科書に政府が関与しない国では、文部科学省が強力な役割を果たし、非常に中央集権化された教科書制作と審査がおこなわれている日本の事例を憂慮するだろうとシュライヒャーは言います。しかし、日本の教員に質問してみれば、教科書制作と出版に先立つ何年にもわたる協議と専門家のかかわりについて教えてくれるだろうと言うのです。また、学習指導要領を解釈し、指導力を高めるための広範な専門的能力開発についても教くれるだろうと言います。これらの取り組みによって、学校や地域が教科書を購入し、教員を通じて教室で配布する方法よりも、職業による当事者意識や現場での自律性がはるかに高いのが日本の事例であるとシュライヒャーは評価しています。中央集権化と地方分権化を一つの領域の反対のものとしてとらえるのをやめたほうがよいだろうとシュライヒャーは考えています。
システムのリーダーは、組織の方針や実践がどのように変化を促進し、抑制するかについて自覚する必要があると言います。彼らは、システムが変化の障害になる時には、システムに立ち向かうことが求められます。彼らは、新たに発生したトレンドやパターンを認識し、めざすベきイノベーションをどう促進あるいは抑制するかを理解する必要があると言います。また、他の組織や人々と一緒に仕事をする際、政治的なやり取りに精通することが不可欠です。リーダーは、自身の知識を使こなし、人々が変化のための計画を支持するように説得します。そして、権力と支配力を駆使し、変化を成し遂げるために必要な協力関係を築きあげます。
例えば、シンガポールの教育が成功した秘訣は、リーダーシップと政策と実践の整合性にあると言います。すなわち、野心的な目標設定、学校がビジョンと戦略を発展させるための教員と指導力の育成、世界のベストプラクティスに対する教育実践の基準となる継続的改善の文化等です。