幼児教育狂騒曲

学ぶべきコンテンツは学校の中だけでなく至るところに転がっています。それに私達が気づいて私達自体が学び続ければ、私達そして子ども達の人生は豊かになると言うのです。幸せな人生への道は、子どもと共有する体験と共に作られるのです。その体験は高いお金を出さないと手に入らないものではありません。子と一緒に時間を過ごし、身の周りに溢れている学びに繋がる瞬間を捕らえることだと言います。そして子どもが自由に問いを出して、探索するのを後押しすることです。こうした体験を積み重ねてゆくことで子どもは優れた学び手に成長してゆくのです。

キャシーらは、一本のマイクを分け合って、ニューヨーク郊外のロングアイランドで350名の聴衆に対して早期教育の話をした後、すぐにリムジンの後部座席に転がり込んだそうです。マンハッタン・チェルシーの20thストリートに行くまでの間、うとうととする暇もなく車内で化粧を整えたのです。コーヒーを飲み干し、眠気を吹き飛ばすと全く改装されていない古いビルの中に入りました。軋む音を立てる階段を上ると、そこにドキュメンタリー映画「Nursery University」を製作したマーク・サイモンのオフィスがあったのです。

マークはいきなり彼女らに「裕福で高学歴の親達が、もしニューヨークの有名幼稚園に我が子が入れなかったら有名大学に進学できないという思い込みに囚われてしまうのはどうしてですか?」と質間しました。これはもはや多くの人々が知る社会現象になっていました。マンハッタンには願書提出の際に必要となる、親が我が子について記述する文章を添削するコンサルタントがいて、立派に商売として成り立っているといいます。親達は子どもを「高学歴・高収入の未来を手にした大人」にするために、ニューヨークの年間授業料が4万2960ドルであるドルトンスクールに我が子を入れなければならないと考えます。親達が幼稚園入試に向けて準備し、合格するために血眼になる狂騒曲を「Nursery University」というドキュメンタリー映画は描き出しているそうです。

「Nursery University」の興味深いところは、多くの選択肢を持つ恵まれた人々でさえ子どもの教育についてピントのずれた心配をしていることだとキャシーは言います。とはいえ過熱した幼稚園お受験物語が浮き彫りにするのは、子どもの頭の中に多くの情報を詰め込むことが、成功への道であるという認識を多くの親が信じて疑わないことだと言うのです。この認識は世の中では当たり前だと思われていて、様々な場面で繰り返し耳にし、やがて自分の信念になっていきます。例えばこんな感じに……「もしあなたの子どもをいい大学に行かせたいと思うなら、幼稚園の頃からしっかり準備した方がいい。いい幼稚園に入るには評判のいい幼児教室に通って読み書きのトレーニングをした方がいい。フォニックスという、綴り字と発音の間の規則性を明示し、正しい読み方の学習を容易にさせる方法の一つで、英語圏の子どもや外国人に英語の読み方を教える方法として用いられているものは、4歳から、本を読むのは5歳から、イルカの数を数えるカードを使うと幼児教室で行う算数テストで点数が上がる。」というような信念です。

著名な評論家フランク・プルーニーは「大学入試病(college admission mania)」が幼児期から始まることを憂い、著書『大学入試病への解毒剤』(未邦訳)の中で、エリート大学に入るためのエリート学校に入ることが子どもの人生にとってはもちろん、親の人生にとってもいかに虚しく意味のない目標であるかを訴えています。