心の道具

「心の道具」というプログラムの研究にはいくつかの重要な活動があるのですが、森口氏は、そのなかで、重要な四つの活動について詳しく紹介しています。

①         物理的な道具による外的な補助

幼い子どもは、まだ自分をコントロールすることはできません。そういう場合に、親や教師などによる支援的なかかわりが重要になってきます。支援の一つとして、物理的道具を使うことで、コントロールしやすくする方法があります。大人でも自分のスケジュールを自分の記憶力だけでは覚えきれませんが、手帳やスマートフォンなどの外部記憶装置を使って、記憶の補助をします。このプログラムでは、絵を使って子どもの実行機能を支援します。子どもが二人でペアになって、一冊の絵本を交代で読んでいくという活動を例にすると、このようなことになります。子どもは、どちらも自分が絵本を読みたくて仕方がありません。実行機能が必要な状況になります。その際に、片方の子どもには口の絵を、もう片方の子どもには耳の絵を渡します。口の絵を持ったほうが話を読み、耳の絵を持ったほうは聞き役です。途中で絵を交代し、役割も交代します。うまく自分をコントロールできない子どもも、絵という道具を与えられて、役割がはっきりすると、うまくコントロールできるようになります。この活動を繰り返すなかで、そのうち絵が必要なくなり、聞き役が絵本の内容について質問するなど、より発展的な活動に推移していきます。

②         友達の行動をチェックする

人の振り見て我が振り直せと言いますが、子どもは、友達の行動を見ることで自分の実行機能を発達させます。この活動も、友達とペアで行います。たとえば、友達が物の数を数える活動をしている場合に、子どもは友達がその活動を正しく行うことができているかをチェックするように求められます。チェックシートのようなものを渡され、逐次チェックしていきます。この活動では、友達が正しく活動を行うことができているかをチェックし、この活動を振り返り、深く考えるようになります。すなわち振り返り訓練が含まれているのです。これによって、自分がその活動をやるときに、しっかりと考えて取り組むことができるようになります。このようなくせをつけることで、実行機能も身についていきます。

③         独り言を使った行動をコントロールする

子どもの独り言はほほえましいですが、この独り言は、子どもの発達のうえで重要な意味を持っていると考えられています。私たちが何気なく使っている言葉には、他の人と話すという役割の他に、考えるという役割もあります。私たちは日常的に、頭のなかで考えるために言葉を使っています。「今日の夕飯のおかずは何にしよう」とか、「明日会社休みたいなあ」などのように、自分だけのために使う言葉があります。こういう自分のためだけの言葉が、ポロッと独り言として口をつくと恥ずかしい思いをすることもあります。

子どもにおいて言葉には、まず、他の人と話すためという役割があり、成長とともに考えるためという役割も持つようになります。1歳から2歳頃にかけて、子どもが話し始める頃、言葉は純粋に何かを伝えるために使用されます。「あれとって」とか、「あれなあに」など、親や周りの他者とのコミュニケーションのために言葉は使われます。それが、成長とともに、子どもは考えるための言葉も発するようになります。周りに誰もいないのに「これなんだろう」とか、「これすきなうただ」などと発するようになります。他の人と話すための言葉と、考えるための言葉が、両方とも言葉として出てくる時期です。後者が独り言です。