音楽や美術

玉川大学の石原博士らの研究は、6歳から12歳の児童を対象に、テニスの経験の長さと、思考の実行機能の関係を調べたそうです。その結果、特に男子において、テニスの経験の長さと、思考の実行機能が関連していることが明らかになっているそうです。運動とスポーツについてまとめてみると、スポーツが難しい幼児には単純な運動をすることが、小学生以上の子どもにはスポーツが有効な方法だと言えそうだと森口氏は考えています。ただ、皆が運動を好きなわけではありません。楽器を弾いたり、絵をかいたりすることが好きな子どもも多いでしよう。こういった活動は実行機能に影響を与えるのでしょうか。

東大生の子どもの頃の習い事としてビアノが挙げられることも多く、なんとなく音楽は子どもの成長に良いという印象を森口氏はもっていたようです。実際の研究でも、子どもの知能や記億の発達に音楽が有効であることが示されているそうです。ロットマン研究所のモレノ博士らの研究では、4歳から6歳の幼児が参加し、二つのグループに分けられました。一つは、音楽を通じた訓練を受けるグループであり、もう一つは美術を通した訓練を受けるグループです。どちらのグループも、1日1時間の訓練を、休憩1時間挟んで二度、週に5日、4週にわたって訓練を受けました。

音楽の訓練は、主に、リズム、ピッチ、メロディなどの音楽の基本的な特徴を区別したり、学習したりすることの他に、音楽に関する概念や理論を学んだりするなど、多岐にわたる内容でした。もう一つの美術を通じた訓練を受けるグループは、形、色、線などの美術の基本的な特徴を区別したり、学習したりしました。どちらのグループも、訓練の前後に、IQと実行機能のテストをされ、これらのテストの成績が訓練を通じて向上するかどうかが調べられました。

その結果、美術訓練を受けたグループは、IQも実行機能もほとんど変化がありませんでした。一方、音楽を通じた訓練を受けたグループは、IQと実行機能が向上したそうです。森口氏らのグループの研究結果も、音楽プログラムが幼児の思考の実行機能を向上させることを示していたそうです。音楽を通じた訓練は、森口氏の個人的には、非常に有望な方法だと考えていると言います。それは何より、子どもが音楽を楽しみ、他の子どもと一緒に取り組むことができるためだと考えています。ただし、実行機能が主体的に行動をコントロールする力であることを考えると、どんなに有効な方法でも、子どもがいやいややるような方法ではあまり効果は出ないでしよう。

森口氏は、ここまではゲーム、運動、音楽と日常的な活動について紹介してきましたが、次に、非日常の世界について考えています。子どもに限らず、ビジネスマンにも人気のあるプログラムが「マインドフルネス」です。マインドフルネスとは、瞑想やヨガなど、自分の身体や精神、呼吸などに注意を向ける活動のことを指します。森口氏らは最近、タイの共同研究者らと、マインドフルネスが子どもの実行機能を向上させるかを検討しているそうです。マインドフルネスは、宗教を思い起こさせるかもしれませんが、現在一般的に用いられているものは特定の宗教や宗派に基づいたものではないそうです。ラジオ体操やヨガのようなちょっとした活動だと考えて方がいいと言っています。