文化の関連

中国とアメリカの幼児の思考の実行機能を比較した研究では、中国の子どもは、アメリ力の子どもよりも思考の実行機能が高いことが示されているそうです。また、韓国の幼児と、イギリスの幼児を比較した研究でも、韓国の子どもの成績が良いという結果が報告されているそうです。そうすると、日本の幼児も欧米の幼児よりも実行機能が高いような気がしてくるということで、森口氏は、日本の子どもとカナダの子どもの思考の実行機能の発達に違いがあるかどうかを調べたそうです。その結果、この研究では、思考の実行機能において日本とカナダの違いは見られなかったそうです。

森口氏以外の研究者らも、概ね日本の子どもと欧米の子どもの間には大きな違いが見られないことを示しているそうです。つまり、子どもの将来にとって重要な実行機能は、日本人が特段優れているという証拠はほとんどないということになると森口氏は言います。我々はこのことを認識し、実行機能をしっかりと育む必要がありそうだと彼はいいます。

文化の関連で言うと、バイリンガルの子どもは思考の実行機能が高いことが示されているそうです。たとえば、ルール切り替えテストでは、幼児はあるルールと別のルールを切り替える必要がありました。ヨーク大学のビャリストク博士は、この課題を英語と中国語のバイリンガル児と、英語のモノリンガル児に与え、その成績を比較したそうです。その結果、子どもの言語年齢は、一つの言語しか学んでいないので、二つの言語を学ぶよりも、言葉の習得が早いためモノリンガル児のほうが高いのにもかかわらず、ルールを切り替える能力は、バイリンガル児のほうが高いことが示されたそうです。

森口氏らも、日本語とフランス語のバイリンガル児と、日本人のモノリンガル児を比較したところ、やはりバイリンガル児のほうがルール切り替えテストの成績が良いという結果か得られているそうです。

なぜバイリンガル児のほうがうまくルールを切り替えることができるのでしょうか。バイリンガル児は、二つの言語のうち一つの言語に焦点をあて、もう一つの言語を無視するという経験と、言語を柔軟に切り替えるという経験によって、頭の切り替えが得意になるようだと森口氏は考えています。たとえば、父親が英語話者で、母親が日本語話者の場合、子どもは父親と話す場合は英語、母親と話す場合は日本語を用いなければなりません。父親と母親と子どもの3人で会話をする場合、その都度子どもは言葉を切り替える必要があります。そのような経験から、子どもには思考の実行機能が育まれるのだと考えられているそうです。

ただし、最近の大規模研究で、バイリンガルの効果は非常に小さい可能性も報告されているそうです。バイリンガルの家庭は、そうでない家庭よりも、裕福であることが多く、前述のように裕福な家庭の子どもは実行機能の成績が良いことから、家庭の社会経済的地位を統計的に考慮すると、バイリンガルの効果が小さくなってしまうというのです。つまり、バイリンガルかどうかよりも、家庭が裕福であるかどうかのほうが実行機能に与える影響が大きいようだと森口氏は言います。このように、自分をコントロールする力、すなわち、実行機能の発達に影響を与える遺伝的・環境的要因について見てきました。