居住地域

育児にかかわるストレスは、親の精神的な健康を蝕むことがあります。産後に抑うつ状態になる母親の割合は、厚生労働省の統計でも約10%だそうです。病的な状態になるのがこの割合なので、抑うつ傾向や不安傾向の親の割合はもっと高いと考えられます。こうした親の精神的な不健康は、実行機能を含めた子どもの発達に負の影響を及ぼすのです。抑うつの場合は、精神的な健康にも波があるので、その状態によって子どもへのかかわり方が一貫しないこともあり、子どもは困惑してしまいます。わが国では、主たる養育者は依然として母親であり、母親がストレスやホルモンの影響などによって精神的な健康を崩すことが多いので、母親の精神的な健康をサポートすることは何よりも重要だと森口氏は言います。特に、産前から産後数年にわたって精神的なバランスを崩しやすいときに、周囲の人間がしっかりとケアする必要があると言います。もちろん、もっと根本的な問題は、父親の育児参加が少ないことなのだと森口氏は念を押します。

次に彼は、居住地域の問題を取り上げています。どこで子育てをするかというのは親の頭を悩ます点なのでそれについて考察していきます。彼も、独身のときには居住地域について考えをめぐらすことはなかったそうです。しかし、家族と生活するようになると、保育園の関係で住む地域を真剣に考えたそうです。では、居住地域は子どもの発達に影響を与えるのでしょうか。

近年の分析によると、居住地域は、居住する同じ年代の子どもの言動や、大人の質、および、地域の結びつきの強さなどによって、子どもに影響を及ぼすということがわかっています。子どもの年齢が低い間は、居住する地域が近い子どもと仲良くする傾向が強いため、周りの子どもに実行機能が備わっていなかったら、その影響を受けると言われています。また、地域に住んでいる大人が子どもの悪い振る舞いを助長するのか、それとも、監督して正すのかという点は、子どもの実行機能にとって影響があると言います。

カナダで行われたある研究では、居住地域の安全性、近隣住民との結びつき、ゴミが捨ててあるかなど、居住地域が子どもの発達に及ぼす影響が検討されているそうです。その結果、近隣住民との結びつきが強いところに住んでいたり、安全で地域の問題が少ないところに住んでいたりすると、子どもの自分をコントロールする力が育まれやすいことが示されているそうです。

次に、より大きな環境要因として、文化による影響はどうなのでしょうか。世界的に見ると、日本人は自分をコントロールできる人々というイメージがあるようです。森口氏の経験では、アメリカ、ヨーロッパ、南米、東南アジアの知人に、日本人は、勤勉で感情を表に出さず、自分を律するイメージがあると言われたことがあるそうです。日本人もこのようなことを自任しているところがありますが、日本人の皆が映画で見る高倉健さんのように自制心が高いわけでもないですし、彼の国外の知人にも、彼よりも何倍も勤勉で実行機能が高い人がたくさんいると言います。では、実際のところどうなのでしょう。

実行機能の文化差については、主に、西洋諸国と東アジア諸国の比較がなされ、西洋諸国の子どもよりも、東アジアの子どものほうが、実行機能が高いことが示されているそうです。