愛着と実行機能

養護施設で育った子どもたちを無造作に三つのグループに分けました。一つは、以前と同じように施設で育つ子どものグループ。もう一つは、里親を探して、その里親の下で育つグループです。さらに、施設とは関係ない、生まれたときから家庭で育ったグループを加えて、三つのグループの発達を比較したそうです。その結果、大きく二つのことがわかっているそうです。まず、里親グループの子どもは、施設グループの子どもよりも、幾分思考の実行機能に優れるということです。里親グループの子どもは、里親によって庇護されます。ネグレクトの状況から脱することにより、ネグレクト状態の施設グループの子どもよりも、実行機能が改善されることがわかったのです。もう一つの結果は、里親グループの子どもは、生まれたときから家庭で育った子どもと比べると、思考の実行機能が低いということでした。この差は、年齢とともに広がっていくそうです。IQなどの影響を考慮すると結果がまた変わる点には注意が必要ではありますが、これらの結果は、早期に親などの養育する者との関係を築けなかったことが重要な影響を及ぼすことを示しているのだと森口氏は言います。

このように、ネグレクトは、子どもの実行機能の発達に深刻な影響を及ぼすと森口氏は言います。さらに彼は、これらの研究から導けるのは、養育者と子どもの生後早期の関係が極めて重要だということであるといます。自分の力で動くことも食事を得ることもできない状態で生まれてくる人間の赤ちゃんにとって、自分を庇護してくれる養育者は重要だというのです。

生後数カ月間をかけて、養育者と子どもは「アタッチメント(愛着)」という関係性を築き上げると森口氏は言います。アタッチメントとは、情緒的な結びつきのことを指します。このアタッチメントがあることで、赤ちゃんは不安なときや怖いことが、あったときに、安心感を得ることができると言われています。泣きながら養育者にくっつくことで、安心感を得るのです。

アタッチメントを形成するためには、特に生後間もない時期には、養育者側のかかわりが極めて重要です。赤ちゃんは不快なときや不安なときに、泣くことによって、自分の状態を表現します。養育者側は、そのような赤ちゃんに対して、敏感に反応する必要があります。赤ちゃんが目を覚ましたときに誰もいなければ不安で泣くことがあります。そのようなときは抱っこして、安心感を与える必要があります。お腹がすいたときにはおつばいやミルクをあげることで、空腹を満たしてあげる必要があります。このようなかかわりを通して、赤ちゃんとのアタッチメントの関係性が形成されます。

アタッチメントの関係性を築くことで、子どもは自分の感情をコントロールすることができるようになります。子どもは、最初は自分ひとりで感情をコントロールすることはできません。養育者にくつつき、慰めてもらうことで、コントロールしてもらいます。こういう経験を繰り返すなかで、感情をコントロールするという感覚がわかるようになります。そうすると、今度は自分で、たとえば指しゃぶりなどをすることによって、感情をコントロールできることに気づきます。そのうちに、養育者の手を少しずつ離れて、自分自身で感情や行動をコントロールし、実行機能を育んでいくと森口氏は言うのです。