経済状態

人間の場合では、胎内環境の重要性を示す証拠は、早産の子どもたちの研究だそうです。在紿37週未満で生まれてきた赤ちゃんは早産児と言われ、わが国でも総出生に示す早産の割合は年々増加しています。早産児は、実行機能の発達に問題を抱えやすいことが示されているそうです。これは、在胎期間が短いことによって脳の発達過程が満期児とは異なることや、出生後の環境が保育器等など母胎とは異なることが影響を与えるためだと言われています。そのため、早産児に対するケアは非常に重要となると言われています。

次に、出生の家庭環境です。現在、発達支援や教育支援という点から非常に重要視されているのが、家庭の経済状態と実行機能の関係だそうです。家庭の経済状態を示すためによく用いられる社会経済的地位というものがあると言います。これは、職業や学歴など社会的な地位と所得や財産などの経済的なレベルによって構成されます。いうなれば、ある家庭が裕福なのか、貧しいのかを表す指標のことです。

社会経済的地位が低い家庭で育った子どもは、社会経済的地位が高い家庭で育った子どもよりも、いくつかの能力が低いことが世界中で示されているそうです。幼児期においてもその差は明確だと言います。コロンビア大学のノーブル博士らは、社会経済的地位が、子どものどの能力に影響を与えるか調べてみたそうです。対象になったのは、視覚認知能力、交換認知能力、記憶力、言語能力、思考の実行機能でした。視覚認知とはモノの形などについての理解、空間認知とはモノの向きなどの理解のことです。

この研究の結果、社会経済的地位が影響を与えたのは、言語能力と思考の実行機能だったそうです。一方、視覚認知能力や記憶力などにはあまり影響を与えなかったそうです。言葉や実行機能のような、発達に時間がかかる能力ほど、社会経済的地位の影響が大きいようです。家庭での教育や子育てが長期間に及ぶことと、次に述べるストレスの影響が考えられると森口氏は言います。同様の結果は、感情の実行機能を調べた研究からも報告されているそうです。森口氏らの研究も、社会経済的地位が、子どもの前頭前野の発達に影響を及ぼすことを示していたそうです。現代の日本では、富裕層と貧困層の格差が広がっています。世界的には日本の経済格差は中位だそうですが、そ れでも年々格差は広がっており、貧困率は15%程度になっているといいます。子どもへの影響が懸念されると森口氏は危惧しています。

では、なぜ、社会経済的地位は子どもの実行機能に影響を与えるのでしょうか。その理由の一つは、社会経済的地位が低い家庭では、高い家庭よりも、子どもがストレスを感じる経験か多いことだと森口氏は言います。前頭前野は強いストレスに対して脆弱なので、社会経済的地位が低い家庭では、前頭前野の発達が影響を受けてしまうからだと言います。

たとえば、社会経済的地位が低い家庭では、子どもが虐待を受ける可能性が高いことが知られているそうです。虐待にも、なぐられるなどの身体的な虐待、暴力的な言葉を受けるなどの心理的な虐待、性的な虐待などがあります。このような虐待を受けると、子どもは強いストレスを感じ、脳の発達は深刻なダメージを受けると言われています。