環境的な要因

実行機能にかかわる遺伝子にもさまざまなものがあるそうですが、よく知られているのが、前頭前野の働きにかかわるものです。これまで見てきたように、実行機能には前頭前野が深くかかわりますが、この領域の働きに影響を与える遺伝子があるというのです。前頭前野でやりとりされる有名な神経伝達物質が、これまでも紹介してきたドーパミンです。このドーパミンにかかわる遺伝子多型がいくつか報告されているそうです。有名なものとしてCOMT(カテコール‐O‐メチルトランスフェラーゼ)遺伝子が挙げられると森口氏は言います。

森口氏らは、この遺伝子のある型を持つ子どもは、別の型を持つ子どもよりも、思考の実行機能が高いことを明らかにしました。特に、3~4歳児では遺伝子多型の影響は見られなかったのに対して、5~6歳児においては遺伝子多型の影響が見られたそうです。思考の実行機能が発達する幼児期後期になってからこの遺伝子は実行機能に影響を与え始めるようです。

ただし、遺伝子によってすべてが決まるわけではないと森口氏は言います。環境的な要因も重要ですし、遺伝子の働き自体が環境影響を受けることも示されているそうです。ここで森口氏は、遺伝的な要因も無視できないという点を押さえてほしいと要望をしています。

次に、環境的な要因について考察しています。子どもを取り巻く環境と一口に言っても、物理的な環境から文化にいたるまで、非常に多岐にわたるそうです。また、子どもの年齢によっても、環境的影響は異なると言います。そのため、森口氏は、子どもの成長とともに、どのような環境的影響が重要になってくるかを考えていきます。

最も早い時期の環境としては、生まれる前の母胎の環境が挙げられます。まず、この点から考察しています。さらに生まれた後でも、さまざまな環境があります。多くの人が関心あるのは、家庭環境ではないかと彼は言います。家庭環境の影響は、経済状態、親子関係、夫婦関係、家庭のルールや習慣などが複雑に絡みあっていると言います。しかし、子どもが接するのは、家族だけではありません。子どもが住む地域環境も大事です。次にこの点について考察していきます。そして最後に、より大きな環境的な要因として、文化的な影響について考察していきます。

まず、実行機能そのものではありませんが、前頭前野の発達に影響を与える重要な要因が、胎内環境、つまり、母親のお腹のなかにいるときの環境です。

レスブリッジ大学のコルブ博士らの一連の動物研究では、ラットの母観の胎内環境が仔の前頭前野の発達に影響を及ぼすことが示されているそうです。ラットの前頭前野の発達に、妊娠中の母胎のストレスが影響を与えます。ラットへのストレスの与え方もさまざまですが、たとえば、水をはったケージのなかに入れるなどのストレスの与え方があります。このようなストレスを与えられると、前頭前野の一部領域において、神経細胞の一部が過剌生産されたり、逆に、過少生産されたりしてしまうなどの影響があることが示されているそうです。つまり、前頭前野の発達が著しい影響を受けるというのです。