衝動的な行動

ウェイル・コーネル医科大学のケーシー博士らは、感情・思考の実行機能を比較するために、非常に簡単な二つのテストを用いました。一つのテストは、モニター上に笑顔の写真が出たらボタンを押し、真顔の写真が出たらボタンを押してはいけません。こちらは思考の実行機能のテストです。もう一つのテストは、逆で、真顔の写真が出たときにはボタンを押し、笑顔の写真が出たときにはボタンを押してはいけません。こちらは感情の実行機能のテストです。

このテストを、小学生、中高生、大人にやってもらったところ、思考の実行機能のテストは年齢が上がるとともに成績が良くなったのに対して、感情の実行機能のテストでは中高生が最も成績が悪いという結果が得られたそうです。二つの実行機能の発達は異なっており、思考の実行機能は右肩上がりであるのに対して、感情の実行機能は青年期に一時悪くなってしまうということが確認されたそうです。

なぜ、青年期には衝動的な行動を制御することができないのでしょうか。森口氏は、その過程を、感情の実行機能におけるアクセルやプレーキという視点で説明してみています。ギャンブルを例にすると、私たちにとって最も魅力的なものの一つであるお金を得ようとするのがアクセルで、その傾向を止めようとするのがブレーキです。青年期においては、アクセルが強すぎて、ブレーキによってうまく制御できていないということになります。アクセルが強すぎるというのは、「暴走する」という青年期のイメージに合うものです。ここで大事なのが、児童期や成人期にはハイリスクハイリターンの選択をしない点だと言います。小学生や大人は、ブレーキがしっかりとアクセルの働きを制御できているということになるのです。青年期にはなぜブレーキがうまくアクセルを抑え込めないのでしょうか。

青年期の前の時期である児童期は、比較的安定した時期だと言われています。むろん、児童期においても、子どもの心にさまざまな変化が起こりますが、その変化は比較的緩やかなものです。一方、青年期に起こる変化は、極めて急激なものです。この変化は、アンドロゲンやエストロゲンのような性ホルモンの濃度が高まるという生物学的な変化によって起こるのです。

児童期からこれらの性ホルモンは体内に存在するそうですが、その濃度はそれほど高いものではないと言います。児童期後期から体内では着々と準備が進んでおり、急激に性ホルモンの濃度が高まるそうです。視床下部という脳領域から脳下垂体に指令が出て、性ホルモンが分泌されます。分泌された性ホルモンは、体のさまざまな部位に送られますが、脳にも送られます。とりわけ、脳内の大脳辺縁系と呼ばれる、感情にかかわる脳領域に作用することが知られています。

男性ホルモンは、扁桃体という脳領域に多く作用するそうです。この脳領域は、見聞きしたものが、安全であるか危険であるかを判断するときにかかわります。たとえば、道を歩いていて、陰からあらわれたのが子犬であれば、私たちは安全だと判断し、子犬に接近したりします。一方、あらわれたのが猪であれば、私たちは危険だと判断し、身を守ろうとします。このような判断にかかわる脳領域が、青年期に大きく発達するそうなのです。