訓練と振り返り

森口氏は、科学的に信頼できる方法を用いて実行機能を訓練した研究について紹介しています。まず、多くの研究者が採用しているのはひたすら練習をするという方法です。この方法では、コンピュータなどを用いて大量の練習を課し、その前後で実行機能が改善するかを調べます。彼は、コブレンツ・ランダウ大学のカバチ博士の研究を紹介しています。

まず、子どもに切り替えのテストをやってもらい、訓練前の子どもの思考の実行機能を調べます。当然、子どもはこのテストで多くのミスをしてしまいます。ルールを切り替えるときに、正しくルールを切り替えることができません。その後に、切り替えテストと同じようなゲームを用いてひたすら訓練します。ドリルみたいなものです。一定の基準に達したら訓練が終わり、その後に、もう一度切り替えのテストを子どもにやってもらいます。訓練前後でテストの成績が変化するかどうかを調べます。こうした訓練の結果、思考の実行機能の成績が、訓練後に向上することが示されました。

この方法はひたすら訓練を繰り返すことによって実行機能を向上させようとしていました。しかし、練習を繰り返すだけでは、あまり効果的ではないと考えられています。もう一手間加えた訓練方法を森口氏は紹介しています。教育現場では、子どもに対して学習内容を授業の最後に振り返ることを求めます。学んだ漢字や算数の公式などを振り返り、復習することで知識の定着が促されます。実行機能の訓練においても、このような振り返りをすることによって、訓練の成果が出やすいことが示されているそうです。森口氏は、切り替えテストを例にしています。ミネソタ大学のゼラゾ博士らの研究です。この研究では、訓練の前後に切り替えテストを与えて、訓練によってテストの成績が向上するかどうかを調べました。訓練では、テストと同様に、切り替えのゲームが子どもに与えられます。このゲームで子どもがミスをしたときに、ミスについて振り返らせます。形ルールで分ける必要があるのに色ルールで分けた場合、今どのルールで分ける必要があったのかを子どもに考えさせます。そのうえで、実験者がお手本を見せます。その後に実際に子どもに分けさせるのです。このようにして子どもに自分のミスについて振り返ってもらい、どういうミスをしたのかをしっかりと考えてもらうことで、子どものミスは大きく減少したそうです。振り返りを入れると効果的なようです。

このようなプログラムは多くの研究者が採用しているそうですが、森口氏は、訓練のために大人しく座っていることができるだけでも、その子どもはある程度実行機能があるのではないかと考えています。彼自身は子どものときにじっと座っていることが苦手であり、授業中にもよく席を立っていたそうです。では、大人しく座っていることができない子どもに対してどのような訓練が有効なのでしょうか。

座っていることのできない子どもには、むしろそういう活発な性格を利用したらいいかもしれないと森口氏は助言しています。そこで、運動を通じた訓練方法が提案されているそうです。その一つである、小学生を対象にしたジョージア大学のベスト博士の研究を紹介しています。この研究では、四つの活動が思考の実行機能に与える影響を比較したそうです。

訓練と振り返り” への9件のコメント

  1. 反復と振り返り。実行機能を向上させる方法ですね。読みながら、ディープラーニングのことが想起されました。AIはこのディープラーニングによって人間をはるかに上回る能力を身に付けていくようです。とはいえ、どうやらその構造は人間における実行機能向上法と同じような気がしました。AIはあるステレオタイプに関しては相当な能力を発揮するでしょう。しかし、人間の複雑さは反復と振り返りによる気づきによって実行機能を向上させていくことになるのでしょう。そして、人間のこの機能こそがAIをますますレベルの高いものに仕立て上げるような気がします。それでも人間の叡智は留まることを知らないでしょう。何等かの要因によってホモサピエンスが滅亡しない限り地球上のホモサピエンス文明は栄えていく気がしてなりません。自然災害やウイルスによってその存在が脅かされながらも支援と協力が憎悪や紛争に優るなら滅亡の脅威を克服して私たちは生き延びていくことができると思います。座っていられる子の実行機能、座っていられない子の実行機能、それぞれがこれからの社会形成において必要不可欠なものとなるのでしょう。

  2. 物事を繰り返すことで、その作業自体の習得やスピードはますでしょう。しかし、「練習を繰り返すだけでは、あまり効果的ではない」という言葉がありました。繰り返しをより効果的なものにする行いが「振り返り」であることで、異年齢における「教え教わる」関係性にも似た振り返りの行程をすることによる定着が期待できるということですね。また、以前学んだように、夜の充分な睡眠がさらなる能力の定着につながるでしょう。そして、座ってられない子の実行機能の育み方は、保育者であればみな興味があるでしょうね。

  3. 繰り返すだけではなく、「振り返る」ということが実行機能の訓練として有効であるということなんですね。振り返ることは過去を省みることとでもいうのでしょうか。反省することで、次への課題を自分で見つけようとする過程でもあるように感じます。そうして見つけた課題を次のステップとするなら、自分が見つけた課題を自分でクリアしていくような感じになるのでしょう。主体性が見えてくるような気がします。
    それから、座ってられない子の実行機能の訓練のしかたは興味があります。次が気になるところです。

  4. 実行、改善、修正という一連の流れを繰り返していくのはなんだかロボットのようですね。そうまでして実行機能を高めなければいけないかと思いますが結果的にそれが子供の将来の収入や健康を決めるのであれば是が非でもというのが世の親の本音なのでしょう。ただそれがイコール子供の幸せに繋がるかと聞かれると大変な訓練というのは大人側のエゴにもなりかねないのでやはり環境を通して、という考え方の見守る保育は素晴らしいと認識しました。

  5. 訓練と振り返りによって、思考の実行機能の向上が見られたのですね。考えてみると初めにある程度の見通しができていたり、自分のどういったところに注意しなければいけないのか、今ポール・タフ氏の「失敗する子、成功する子」を改めて読んでいるのですが、「成功者になるには失敗させる必要がある。失敗をどう扱い、失敗からどう学ぶかを知ることの重要だ」ということがたびたび言われています。「失敗を克服する」ということが立ち直る力であり、粘り強く対応する力につながることにおいて、「反復することや振り返る」ということに有用性があるということは想像がつきます。こういった小さな積み重ねが思考の実行機能につながるのだと思いますが、それをより強い効果のためには自主性や主体性も関わってくるのではないかと感じます。

  6. 「子どもに自分のミスについて振り返ってもらい、どういうミスをしたのかをしっかりと考えてもらうことで、子どものミスは大きく減少したそうです。振り返りを入れると効果的なようです。」振り返ることによって実行機能の力が身につく、大きな発見だと思います。そして練習でその力が向上されるということも驚きでした。練習、反復、その繰り返しで向上できると思うとまるで筋肉のようで、それは放っておけば衰えはするものの、何歳になっても成長をさせることが出来得るものです。人間の可能性の大きさを改めて感じます。

  7. 「座っていることのできない子どもには、むしろそういう活発な性格を利用したらいいかもしれないと森口氏は助言しています」特定の測定方法では特定の子どもの能力しか測れないということを感じます。その方法で測れないからその子は実行機能が低いんだという単純な考え方を持ってはいけないということですね。その子によって異なるという視点は私たちも常に持っていなければいけないことですね。「訓練のために大人しく座っていることができるだけでも、その子どもはある程度実行機能があるのではないかと考えています」このような見方も園での子どもの見方に通じてくるように思います。

  8. 繰り返しと反復、いろいろな場面で有効かもしれませんね。ただ子どもたちを見ていると、振り返りをしたくないというか、常に前へ前へという感じなので、過去をあまり振り返らないという印象です。ただ何か目標があった時には積極的に振り返る姿を見ます。最近、運動会で雑巾掛けリレーを行い、どうやったらタイムが縮まるのか?相手に勝てるのか?と反省をしていました。実行機能を身につけるために、繰り返しと反復をさせると効果的なのかもしれませんが、やはり子ども自身が自らするような活動であったり、興味、関心があることが大切かと思います。

  9. 「実行機能の訓練においても、このような振り返りをすることによって、訓練の成果が出やすいことが示されている」とあり、なぜ失敗をしたかを子どもに考えさせることが大事なのですね。つい間違いをサラッと言ってしまいそうですが、そうではなく、そこでも援助が必要であり、大人のグッと堪えて見守っていく姿勢というのが大事になってくることがわかります。帰りの会などで1日を振り返り、自分がどんなことをしたのか考えてもらい、ただ1日が過ぎていくのではなく自分を振り返るというのも必要ですね。そして明日何をするのかという見通しを帰りの会で持つというのも大事であるように感じます。

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