肥満児

ある新聞のコラムニストは、肥満児をもつ親からの相談に対して、「専門家」の意見を引用しながら次のように答えています。

「親がまずすべきことはよい手本を見せるということだと小児科医ナンシー・A・ヘルドは言う。“もし親が食生活に無頓着で、座ってばかりいれば、その行動を子どもは真似とするようになる”」

小児科医も間違っていれば、マンガ家も間違っているとハリスは言います。キャシーの親に責任があるとすれば、それは自分の娘に自分たちの遺伝子を受け継がせてしまったことだけだと言いきります。彼女の親もまた、かわいく、ぽっちゃりとしているのです。キャシーはそのかわいらしさを受け継いだのと同じように、ぽっちゃりさも受け継いでしまったのです。

ハリスは以前、遺伝と環境のそれぞれの影響を行動遺伝学的方法で切り離して考えることができることについて述べています。性格の特徴を調べるのと同じ方法が、肥満に関する研究においても応川されているのです。一卵性双生児は一緒に育てられようともそうでなくとも、大人になってからの体重も似通っているのが普通です。その類似性は二卵性双生児よりも高いのです。養子はその養父母や養子縁組による兄弟とは肥満度や細さでは類似しません。

そこで、ハリスは考えてみようと提案しています。二人の養子が同じ家庭、同じ養父母に引き取られました。養父母はキャラメルポップコーン好きのカウチボテト族かもしれませんし、毎日トレーニング・ジムに通う熱心なブロッコリ信奉者かもしれません。子どもたちは二人とも同じ親の行動にさらされます。二人とも同じ食事をとり、同じおやつを口にします。それでも一人は脂肪の少ない理想的な体型に、他方は肥満になります。

肥満や細さが遺伝する確率は、性格の特徴より多少高く、およそ0.70だそうです。ただし重要なのは、遺伝子以外の要因すなわち環境的要因による体重のばらつきは、家庭環境にその原因を求めることはできないということだとハリスは言うのです。親の行動が子どもの体重に長期的な影響を与えることを示す証拠はなく、むしろ影響を与えないという証拠ならかなり揃っているそうです。それにもかかわらす、新聞のコラムニストも小児科医も疑うことを許さないかのような口調で、親が「よい手本を示せば」子どもは一生細身で通すことができるなどと親に教示するのです。

これは間違っているだけでなく、親を不当に扱うことにもなるとハリスは危惧しています。あなたが不幸にも太っていて、子どもも同じ不幸を背負っている場合、あなたの食生活の乱れや運動不足が責められるだけでなく、子どもたちの不幸についても責めを負わされます。あなたが太っているのはあなたの責任で、子どもたちが太っているのもあなたの責任だとされてしまうのです。

この点でハリスは立腹しているそうです。肥満の親の子どももまた肥満児になりやすいのは、親が与える食事のせいや親が悪い手本になっているせいではないと考えています。肥満はその大部分は遺伝により受け継がれるものなのです。