親か仲間か

養子縁組により子どものIQが上がるというのは、養子先がその子の生物学的な親が与えたであろう家庭よりも社会経済的地位が高い場合なら、理にかなっているといえるだろうとハリスは言います。養父母が中流階級の人であればおそらく中流階級地域に居を構えているでしょう。養父母が肉体労働者であれば中流階級地域には住まないでしょうし、そうした状況であれば、誰にしても養子縁組により子どものIQが上がるとは期待しないでしょう。これはまさにフランスで実施された研究で明らかになったことです。中流階級の養父母に育てられた養子は労働者層の親に育てられた子どもよりもIQが高かったのです。実際、両集団のIQ平均値には12ポイントもの差があったそうです。

この差を生みだしたのは、家庭での経験だったのか、それとも学校や地域での経験だったのでしょうか。養父母の態度や行動か、それとも仲間たちの態度や行動だったのでしょうか。ハリスの同僚なら「親」、ハリスなら「仲間たち」と答えるでしょう。

養子縁組がIQに与える影響についてもう一つ不明な点があるとハリスは言います。その影響は大人になるまで維持されるのかどうか、です。調査当時、フランスの養子たちは平均14歳でした。他の行動遣伝学研究はそれらが維持されないことを示唆しているそうです。養子縁組により兄弟となり同じ家庭で育てられた養子二人のIQ間には、幼少期には適度な相関関係が見られたそうです。それはおそらく各家庭の知的な雰囲気(例えば親が使う語彙)によるものだろうとハリスは言います。ところがこの影響は一時的です。この二人が大学に入学するくらいの年齢になる頃には両者間のIQの相関関係は減退してしまったそうです。子どもは大きくなるにつれ、自然と自分の性向に従うようになります。ティーンエイジャーたちは、学業成績に関する態度が異なる仲間集団に自分自身を振り分けるようになると言います。

その一方で、行動遺伝学研究はおそらく養子縁組の長期的効用を過小評価しているのだとハリスは推測します。なぜなら研究者たちは、フランスの研究者がしたように特別努力して社会経済的地位に大きくばらつきのある家庭で育てられた養子たちを探そうとしなかったからだとハリスは言うのです。養子たちのほとんどは中流階級地域に住む中流階級の親によって育てられています。労働者階級の環境で育てられた養子たちの数が不足していることでIQにおける環境の影響を正確に把握することが難しくなっているのだと言うのです。

幸いにもほかのデータがあるとハリスは言います。年代の異なる養子と血のつながりのあるおよび養子縁組による縁者とを比較した研究です。その研究によると、年齢が大きくなるにつれては血のつながりのある親兄弟と近くなり、養子縁組による親兄弟とは差が広がることがわかったそうです。しかしながら養子に出された子どもは、養子縁組に出されることなく生まれた家族でそのまま育てられた血のつながった兄弟に対して、大人になっても優位性を維持していたそうです。養子に出された子どもは養子先の、養父母の生物学的な子どもである兄弟ほど好成績は上げられませんが、血のつながった兄弟よりは高い成績を示すことができたのだそうです。このことから養子縁組は長期的な効果をもたらすと言えるだろうとハリスは言います。もっとも12ポイントとはいかず7ポイントくらいのわずかな効果ですが。これでようやくジョン・B・ワトソンが自慢げに語った内容への攻撃を終えることができるとハリスは言います。