重要な環境要因

攻撃的な行動がその集団の規範的行動だとされる集団で育てられる子どもたちは、攻撃的な行動をとることによって、注目されたり、承認されたりといった報酬が得られます。親や親以外の大人が攻撃的に行動する様子を見て、また他の子どもたちが攻撃的に行動する様子を見て彼らは育ちます。これらの作用が肩を並べるように同一方向に進んでいるのであれば、どれが実際に牽引しているのか、見分けはつきません。ですから、これらが別方向に作用するケースを検証しなければならないとハリスは考えています。

しかし、心理学者も人類学者もそれを怠ってきたとハリスは指摘します。その必要性にすら気づいていないと言うのです。彼らは直観に基づき、あるいは子育て神話のどの局面がそのときの流行なのかに基づき、どの環境要因が重要なのかを決め、それを公表してきたのだと言うのです。そこで彼らが自説を立証するものとして掲げる証拠など、多彩な選択肢の中からは識別できないのですから、なんら意味をもたないと言います。

実際作用を及ぼしている環境要因は何かを見極めるにはそれらの環境要因が同じように作用しない場合を考察するしか方法はなく、そのためハリスは何度となく移民の家族に言及しています。親がある文化に属し、親以外の地域社会が別文化に属しているとき、少なくとも親からの影響と家庭外からの影響とを区別することができます。

イギリス人作家テイム・バークスは、イタリアに居を移してから長く、その地で子ども三人を育てています。彼の著書『イタリア式教育』では移民である父親としての経験が語られているそうです。彼がその本を執筆したのは次のような願いからだと言っています。

「本書の最終ページに行き着く頃には、読者も、そしてはるかに重要なことだが私自身も、イタリア人がイタリア人である所以、さらにどのようにして私自身の子どもたちがよそ者になるのか(なったのか)を理解できはじめていることを願います。」

ハリスは、見るかぎり、バークスはイタリア人がイタリア人である所以を解明するにいたらなかったようだと述べています。ただし、自分の子どもたちが別の文化にどっぷりはまりゆく様子を傍から見る父親の心情を巧みにとらえてはいると言います。

「ミケーレが入ってきて英語でこう言うのです。“お父さん、そんなにfiscal (”会計の“の意味)にならないで。そんなにfiscalに」と。彼は寝る時間を厳守するよう強要する私に抵抗していたのです。彼が言いたかったのはイタリア語のfiscaleでした。

本当は、fiscaleとは、イタリア語で「厳しすぎる」「強情なほど厳格」を意味する軽蔑的表現なのです。すなわち、ミケーレは「お父さん、そんなにかたくなにならなくても」「お父さん、そんなつまらないことで大騒ぎして」と言いたかったのです。

「fiscalにならないで」私が彼に英語で話してほしいと思っていることを承知しているミケーレはこう言ったのです。「夜更かしさせてくれるのなら、おとなしくするよ」と。夜更かし禁止のルールは、は厳守しなくてもいいと彼は言いたかったのです。彼はそれが典型的なイギリスの習慣であることを知らないかわりに、この柔軟性はまさしくイタリア人なのです。

重要な環境要因” への9件のコメント

  1. テイム・バークス氏のケースにおいては、自分の子どもたちが別の文化にどっぷりはまりゆくとあるように、親からの影響よりも家庭外からの影響の方が強く作用したということでしょうか。昔、外国人の母を持つ子どもを受け持ったことがあるのですが、その時に子どもが言葉を含め何を言っているのか分からない、理解できないとその母親が言われていたのを思い出しました。今思えばその子も母親の慣れ親しんだ文化よりも日本の文化や習慣というものに染まっていったのでしょう。それを踏まえるとやはり身近な親や家庭という存在以上に、外部の環境要因が作用しているように思え、家庭外の環境である保育園などの集団に置ける重要性を改めて感じました。

  2. バークスの例は、兄弟姉妹言語と考えられる英語とイタリア語間のニュアンス、と日本語の私は理解してしまいますが、英国人とイタリア人は私たちが単純に「白人」として括ってしまえるほど単純ではないということを表していますね。文法構造も単語も近い言語同士であっても子育て文化の違いが大いなる影響を子どもに及ぼすのだとわかります。日本でもここ10年間で多くの移民家族が住むようになっています。同じモンゴロイドでも伝承してきた文化は同じではなく、言語が違うように生活風習も違います。ましてやそれ以外の民族および文化背景を有する人々は日本社会に馴染むまで、それはそれは大変でしょうね。『日本式教育』を著し、「親からの影響と家庭外からの影響とを区別する」人が出てくれば、ハリス女史の研究成果のプラスになるのかもしれませんね。厳格なイギリス人と柔軟なイタリア人、という区別は「所以を解明するには至らなかった」とのハリス女史の評価を受けそうです。もっともっとハリス女史の見解に触れたくなります。

  3. 「自分の子どもたちが別の文化にどっぷりはまりゆく様子を傍から見る父親の心情」何だか理解できるように思えます。長男がYouTubeを見て、簡単にできると思って買ってみたテレビゲームの難易度が高く、最初の画面から前に進むことができませんでしたが、ある方からアドバイスをいただき、その画面から一歩前に進むことができると、後は今までYouTubeを見て培ってきたノウハウでもって今夢中になって遊べてしまっています。テレビゲームをしないで育ってきた世代でもないと自分のことを思っていましたが、今息子が理解している程にゲームを理解することは難しいと感じています。息子があまりにもスムーズにその世界の中での展開を楽しめていて、また、周囲の友だちともそのような話題になったりもするようで、この度のブログに触れ、いつの間にかこうして環境に馴染み、それを謳歌しているような息子の姿を思い出してしまいました。

  4. 確かに環境要因をしらべるためには、その文化が家族と外的な環境とが違う場合でしか検証はできないのでしょうね。そこでバークス氏の家庭の事情を取り上げたというのはとても面白く感じます。私の園でも、海外から日本に移住している子どもたちがいます。また、日本と海外とを親の仕事の環境で行き来する子どもがいますが、初めはすこし他の子どもたちとは違った感性があるように思います。しかし、うまく日本の文化に順応していくようになってきています。かえって、その保護者の方が戸惑うことが多いようにも感じます。柔軟性は子どものほうが強いことをとても感じることが多いですね。

  5. 環境要因かどうかを調べるには、確かに文化と国が別の地域に住んでいる人たちを調べていくのが一番分かるのだと思いました。園にもイギリス人の父親を持つハーフの子がいます。その子は園では日本語を話します。年に一度ほどイギリスに里帰りしているようですが、そちらの言葉は園では全く話すことはありません。ですが、お父さんはその子に英語で話しかけます。「イギリスのことを忘れて欲しくないから」とお父さんは話してくれました。この事実からみても家庭よりも家庭外の影響が大きいことが分かりますね。そして、そのことをそのお父さんは理解しているからこその行動であるように思えました。
    そして、その子はお父さんの話す英語に英語で返していました。子どもの柔軟性の高さに驚いています。

  6. 「自分の子どもたちが別の文化にどっぷりはまりゆく様子を傍から見る父親の心情を巧みにとらえてはいる」とあるように、やはり我が子をそこで思い浮かべてしまいます。保育園に入った我が子は保育園での出来事をみるみるうちに吸収していきます。そんな歌歌えたっけ?とかそんな言葉つがい…とか外の環境の影響をしっかり受け育っています。そんな姿を見ているとこの様な話と重なってきます。親以外の影響の大きさ…そして柔軟さを思い知らさせます。

  7. 環境に合わせて、人は柔軟に対応するような力があることを今回、改めて感じることができました。”自分の子どもたちが別の文化にどっぷりはまりゆく様子を傍から見る父親の心情を巧みにとらえてはいる”とあり、私たちがどんなに育ってきた文化があれど、例えば、国の文化、また、園などにある文化的要素に順応しようと文化に入っていこうとするのですね。

  8. イタリア人の柔軟性を子ども達がどっぷりとはまっていく様子を傍から見るという感覚は面白いですね。おそらく私の息子も似たような経験を日々しているのかもしれません。保育園という家庭とは違う文化を体験し、その中で子ども同士の関わりであったり、異年齢での関わり、さらに詳しくいうと、同じカテゴリーされた同士の関わりから新しい事を学んでいる気がします。最近では言葉遣いです。なぜか関西弁のイントネーションが混じっているときがあります。家庭よりも外部の環境要因が大きく影響していると思うと、本当に家庭の役割、親の役割というのを考えさせられますね。それこそ藤森先生が小学校の担任をされた時に保護者の方に言われた「親の役割は学費を稼ぐ事です」という一言が的確だと思います。

  9. 「人間のどの行動を見るか、同じ集団内の仲間に向けた行動か、それとも別集団のメンバーに向けた行動か、によって異なるというのです」とありました。集団に対する対応の仕方というのがポイントになるのですね。個々の人というよりも、その個々の人がどういった集団に属しているかで、人は対応が変わるということなのでしょうか。そう考えるとなんだか分かるような気がします。やはり、人は自分が属している集団への関わりと、そうではない集団への関わりでは差があるように思います。集団で見方を変えるというのはおもしろいですね。

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