環境的作用

遺伝以外に子どもたちと大人の行動の類似性をもたらしたと考えられる四つの環境的作用の選択肢をいかに取捨選択するかは、ハリスはできないと考えています。問題は、通常の状況下では子どもの環境のあらゆる側面が相互に関連しあっている、すなわちすべてが連動して常時変化していくために、環境のどの側面が子どもに影響を及ぼしているのかを見極めることができないことだとハリスは言います。サン・アンドレスの子どもたちがラ・パスの子どもたちよりも攻撃的なのは、親の育児態度によるものなのか、親を模倣することによるものなのか、親以外の大人を模倣するからなのか、他の子どもたちを模倣するからなのか、はたまた両社会の住民の遺伝子構造の違いによるのか、それを識別することはできないと言うのです。なぜなら考えられるすべての影響が皆同じ方向、サン・アンドレスの攻撃性を高め、ラ・パスの平和性を高める方向に作用しているからだと言います。

私たちの住む多文化社会においても同じような影響の混在が見られるようです。ハリスは、架空のカップルを想像してみようと言っています。彼は弁護士で彼女はコンビ=ータ・サイエンスの専門家。彼らは、それぞれの父親も在学した同じアイヴィー・リーグの大学で知り合いました。彼らには、親の持っていない遺伝子を組み込んだ子どもであるデザイナーベビー」が二人います。彼らが住むのは郊外の高級住宅地で、近隣の親たちも皆高学歴で、子どもたちも皆平均以上。子どもたちは博物館や動物園、図書館にも連れていってもらえます。家には本がたくさんあり、子どもたちが幼い頃は親が読み聞かせをしましたし、親自身もよく本や雑誌を読みます。近所の子どもたちも同じような家庭環境にあり、学校の生徒たちもまた同じでした。

もし二人のデザイナーベビーが優秀な生徒で、親や祖父が通った同じ屈指のアイヴィーリーグの大学に人学が許可された場合、彼らの学業的成就の理由は何でしょうか。遺伝子でしょうか。それとも親が子どもに本を読み、知的な活動を奨励したからなのでしょうか。それとも親自身が知的な活動に従事していたからなのでしょうか。それとも同じ社会に住む他の大人もまた知的な活動に従事したからなのでしょうか。それとも近所や学校の子どもたちもまた同じような環境にあるからなのでしょうか。

このケースのように、これらすべての要因が同じようなばらつきを見せるときに原因を特定しようとするのは、まるでプードルをアパートの部屋で飼いつづけ、フォックスハウンドを犬舎で飼いつづけながら、この二種の行動様式がなぜ異なるのかを検証しようとするようなものだとハリスは言うのです。実際の作用を調べるには、これら異なる影響がそれぞれ別の方向に作用するケースを取り上げるしか方法はないと言うのです。ハリスは、遺伝と環境の影響を調べるために一度それを実行しています。プードルを犬舎で、フォックスハウンドをアパートの一室で飼ってみたあのケースです。また、遺伝子をある両親から与えられ、環境を別の両親から与えられた養子についても検証しています。

ハリスが言いたいのは、環境による影響から遣伝による影響を引き離すだけでは不十分だということです。多様な環境による影響もそれぞれに分けて検証すべきなのだと言うのです。遺伝と環境が同方向に作用するように、環境と環境も同じ作用をもたらしかねないからです。

環境的作用” への9件のコメント

  1. 一人の人が成長する過程において、遺伝や環境を含めた様々な要因が作用しているということを感じます。結果だけを取り上げても、そ過程において何が一番影響を与え作用したのかを判断するのは相当難しいことですね。架空のカップルのケースにおいても正直なところ何がなんなのかこんがらがってしまいそうになりました。ただ、それだけ人が形作られていく過程や要因とは目に見えてわかるような単純なものではなく、複雑怪奇だからこその面白さというものがあるように思えます。私的にはある意味、絵の具のように様々な色が混ぜ合わさり、重なり合うことで人というものが成り立っているようにも思えます。

  2. お医者さんの子どもが医者になったり、社長さんの子どもが社長になったり、職人さんの子どもが同種の職人になったり、そうしたケースがあるな、と今回のブログを読んで思いました。遺伝か環境か、ということについては進化発達心理学上の大問題であることは当ブログによって知り得たことでした。そして、「模倣」の4類型に関しては「影響の混在」ということが妥当であると思われます。その混在のグラデーションとでも申しますか、色の濃淡によって表出の仕方も異なるのでしょう。「遺伝と環境が同方向に作用する」。私はこの部分に反応します。受け継がれた遺伝的要素は、その遺伝子のパワーを遺憾なく発揮できる環境が整ってこそ、なのではないかと思ったりもしました。蛙の子は蛙、しかし一方で鳶が鷹を生む、ということも。おそらくこの二つの比喩で表される人の出世があって、私たちの社会は出来上がってきたのだろう、そんなことも考えました。

  3. 「架空のカップル」の例、とてもよくわかりました。遺伝か環境か、ではなく、「多様な環境による影響もそれぞれに分けて検証すべき」その人間が成立していく上でそのどちらもが大きな影響力をもっていることが改めて理解できるように思えます。そしてこの例で興味深く感じたことは、この環境下で育ったデザイナーベビーたちの学業的成就について、何ら違和感を感じない点です。この環境ならこうなるだろう、というような納得が頭に生まれる点で、環境に人間は順応する、子どもなら尚更のことであるその性質が人間には備わっていることを思った時、やはり側にいる大人は適切な環境を整えることに最大限努力する必要はあるように思えてきました。

  4. 「多様な環境による影響もそれぞれに分けて検証すべきなのだと言うのです。遺伝と環境が同方向に作用するように、環境と環境も同じ作用をもたらしかねないからです。」なるほど、今ハリス氏がどういったことを求めて検証しているのかが少しずつ見えてきました。確かにこの先に見えてくる結果は興味深いものがあります。これからの多様性の求められる社会において、子どもたちのいる環境がどう作用するのか、遺伝における作用はどう捉えるのか。人のメカニズムがわかることで、相手を理解する糸口も見えてくるように感じます。その社会に向けて、乳幼児教育のあり方や求められる環境はどういったものなのかを知ることにもつながりそうですね。

  5. いろんな人がいて、いろんな人が混在していることの原因というか、それが遺伝だけでは説明できないものであるということを感じました。例えば、プロ野球選手の息子はプロ野球を目指したり、それ以外の違う仕事についたりしているのは、遺伝の影響なのか、環境の影響なのか、親の影響なのか、友だちの影響なのかはっきりさせることはできないということなのですよね。ただ、発達の方向といいますか、プロ野球選手の息子がプロ野球選手になった場合、ベクトルはそちらの方向に矢じるしが向かっているのは確かであるのを感じます。決定はできないが、環境に柔軟に対応できるのが人間であり、対応できることがいろんな人がいること、社会であることを感じました。

  6. 人がどれだけ様々な環境から影響を受けているかがよくわかる内容となっています。さらにそれらを検証しようともなると「環境による影響から遣伝による影響を引き離すだけでは不十分だということです」とあるように環境の中でも様々な分類にわかれていることもわかります。生まれながらにして人は人的環境の中で生きていき、関わることから親の影響というのが以前のブログであったように親の影響というのは遺伝子のみであり、ほとんどが外の影響なのではないかとも思えてきますね。

  7. 同じ環境であっても、子どもがもつそれぞれの特徴が違えば、それによる作用されるものも変わってきますし、環境が違う同士であっても、必ずしも、違う成長を遂げるとは、限らないということを考えることができました。
    また、親の背中を見て育つ、という言葉がありますが、確かに親の行動を見て育ちます。しかし、それだけではなく、周りにある文化であったり、集団的な環境、取り巻く社会的なものなとが左右され、そういったことにより、子どもはそれぞれに社会の中で必要な力を身に付けようと、さらに生得的要素をいかに残していくのかを本能的に感じ、生きているように思いました。

  8. 架空のカップルによるデザイナーベビーの子育ての例を読んでも、実際に何がどう子どもに作用しているのか決めるのは難しいと思いました。それだけ子ども達は様々な環境であったり、経験から多くの事を学び、成長してくのだと思います。おそらく遺伝というのは実はシンプルなもので、我々人類が今日まで生き延びてきた理由が遺伝子として残されているようにも個人的に感じました。だからと言って簡単に解決できるものでもないと思いますが、赤ちゃんが母親のお腹の中から生まれた瞬間から環境が作用し、その環境がいかに重要であるか、「遺伝」という一言で片付けるのでなく、それこそ多様な環境による影響を検証することが重要ですね。

  9. あらゆる作用が働いて、人を作り上げているということを感じます。よくメディアなどで、こうすれば天才になるというようなメッセージを目にすることがあります。それが完全に間違いというか、そうなることの一つの作用でしかないものなのに、それさえやっておけば大丈夫というようなメッセージに思えてしまうことに違和感を感じてしまいます。「これをやっていればこうなる」と明確に言えなくても、大切なことが乳幼児教育にはたくさん詰まっているように思います。これからの時代はその大切なものを明確にしていくことも求められてくると思うのですが、同時に簡単には明確にできないことも理解してもらえるといいのかなとも思えてきました。

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