文化は親から

乳幼児教育において、指導が必要であるか、また援助とすべきかという議論があります。保育所保育指針、幼稚園教育要領の策定においてその議論がされてきました。その議論の中で、指導には個別対応的側面と文化伝達的側面があり, 援助だけでは文化伝達的側面が欠けており2 つの側面の統一的な指導が保障されないとしたことがありました。しかし、最近の研究では、赤ちゃんが9ヶ月を過ぎる頃から、他者を、意図を持った存在として認識し、他者との三項関係を築くことによって、人間が培ってきた文化の中に参入し、その文化の中で学習するとともに、文化の担い手になっていくということがわかってきています。また、次の段階では、他の子どもからの働きかけにより、年長児がモデルとなり年少児が模倣しようとすることから、遊びの子ども文化が伝承されていくことがわかっています。そこで、私は、文化伝達的側面においても、指導ではなく、環境を用意することが必要になるのだと考えています。もちろん、環境といっても、物であったり、場だけではなく、子どもに大きな影響を与えるものに人という環境が大切になると考えます。すなわち、仲間という子ども集団の存在が重要だと考えるのです。

それに対して、マーガレット・ミードは文化とは「親たちから子どもたちへと伝えられる学習された行動の体系的総体」と定義したそうです。ハリスは、この文化についてどのように考えているのでしょうか?

まず、この定義でいうところの「学習された行動」の意味は広範囲に及ぶと言います。ハリスが挙げた例としては、振る舞い方が独断的であったり控えめであったり、感情的であったり冷静であったり、攻撃的であったり穏やかであったり、という社会的行動はこれに含まれます。また石を削って矢じりをつくる技術や、電子レンジの使い方もその範疇に属します。地元の言え語に精通すること、言葉の適切な使い方もまた然り。さらに「行動」という単語をかなり無理して解釈することになりますが、ミードが決して除外しようとはしなかったのが、はるか昔自分たちの先祖がどのように生をうけ、何がその誕生にかかわっていたかという考えであり、これもまたここに含まれているようです。

学習された行動は「親たちから子どもたちへと伝えられる」とミードが仮定するのは、イタリア語を話せるようになる社会もあれば、日本語を話せるようになる社会もあり、また矢じりのつくり方に精通する社会もあれば、電子レンジの使い方に熟練する社会があるように、社会ごとに子どもが学習する行動が違うこと、さらにそれらの行動と最も類似する行動をとるのがその親であることを、彼女自身が認識しているからだと分析します。文化が世代から世代へと伝えられる他の方法などあるのでしょうか。文化が時に数百年も存続することができるのは、それが親たちから子どもたちへと伝えられているからにほかならないのではないでしょうか。マーガレット・ミードは人類学者であり、心理学者ではありませんが、だからといって彼女が子育て神話と無縁だとは言いきれないとハリスは言います。文化は親が子に教えるものであるという彼女の仮説もまた仮説にすぎないのだと言うのです。

ハリスは、文化がいかにして世代から世代へと伝えられるのかについて、別の視点からとらえようと思っています。

文化は親から” への9件のコメント

  1. 今回のブログは殊の外重要です。なぜなら藤森先生によるコメント、最初の段落の内容、がまさに就学前の子どもたちの保育に携わる私たちが肝に銘じて置くべき内容、しかもコンパクトに、ダイジェスト的に記述されているからです。9か月革命と環境の重要性、そして人的環境、特に「仲間という子ども集団の存在が重要だと考えるのです。」というところに集約されます。この第一段落を私自身の中に落とし込みたいと思います。マーガレット・ミードの文化伝承の形態論については興味深いものを感じます。が、文化の定義、については果たしてそうなのだろうかと思ってしまいます。「親たちから子どもたちへと伝えられる」というところが気になります。「ハリスは、文化がいかにして世代から世代へと伝えられるのかについて、別の視点からとらえようと思っています。」このことに期待したいと思います。

  2. 指導も援助も大人から子どもへ、保育者から子どもへ、という直接的なアプローチの枠組みの中にあるように思えます。そういうトップダウンの中に文化の伝承があるものではなく、環境や、親、側にいる友だちが現代や文化というものを教えてくれ、そして子どもたちは持って生まれた力でもって、これからに向かって残すべきものと精査すべきものとを分けていくのかもわからないと思えてきます。子どもを白紙と思うか、有能と思うか、という大切な観点を含んだ上での理解が不可欠であるように思え、「ハリスは、文化がいかにして世代から世代へと伝えられるのかについて、別の視点からとらえようと思っています。」どのような展開が待ち受けているのかとても気になります。

  3. 伝統文化など、親の世代から子の世代へと脈々と受け継がれていくものがあります。ただそれらは単に親を含めた大人からだけではなく、子ども集団の中でも受け継がれていくものなのですね。子どもにとって遊びは学びであり、その中から社会で生きていく為の様々な術を学んでいきます。だからこそ、文化伝達的側面においても仲間という子ども集団の存在が重要だと考えることは非常に納得がいきますし、子どもの遊びの奥深さも感じます。私は毎回のように、ブログから新しい発見や気づきがあるのですが、今回もまた一つ、遊びに関する認識というものがバージョンアップしたように思えます。

  4. 〝文化伝達的側面においても、指導ではなく、環境を用意することが必要になる〟という藤森先生の言葉がありました。子どもは遊びの中からほとんどのことを真似て学んでいきますね。ということは大人はそのような環境を用意してあげることになるのだと思いますが、文化的なことは親から受け継がれるという意見もあるのですね。そして、ハリス氏の別の視点から捉えていく展開がどのようになるのか気になります。

  5. 「文化は親が子に教えるものであるという彼女の仮説もまた仮説にすぎないのだ」大人の役割というものがこれまでの説とは大きく変わってきますね。まさに藤森先生がよく講演の中で「保育に言われる人的環境は保育者ではなく、子どもであって、保育者は別の安心基地としての役割がある」といっていたことがまさにここにある内容ですね。子どもたちの様子を見ていても、大人がすべてではないということがわかります。大人が注意するよりも、子ども同士でやり取りした方がすんなりいくこともよくあります。それは大人と子どものカテゴリーが違うからなのでしょうね。こういった研究の内容と子ども様子を比べていると確かにそれに近いことが起きているように思います。

  6. “マーガレット・ミードは文化とは「親たちから子どもたちへと伝えられる学習された行動の体系的総体」”とありました。親から子へ文化を伝承する、やはり、一緒に暮らしていくなかで身近なモデルとして存在していることも要因であることを考えられます。集団を通した文化の継承という考え方には藤森先生の”環境といっても、物であったり、場だけではなく、子どもに大きな影響を与えるものに人という環境が大切になると考えます。すなわち、仲間という子ども集団の存在が重要”という子ども集団のだけではなく、人が集まる集合体、集団こそが多様な学びの場であり、大きく言えば、人から人へ、細かく言えば、年上から年下へなどの環境のがあることが、人類が学習した文化を世代から世代へとつなげているように考えられました。

  7. 本番の前半である藤森先生の遊びの子ども文化が伝承されていくお話は我々が今見ているものです。そしてわかりやすい部分であります。文化は親からという視点では疑問がありますが、「ハリスは、文化がいかにして世代から世代へと伝えられるのかについて、別の視点からとらえようと思っています。」という部分ではどんな見解が見られるのかが楽しみとなりますね。

  8. 指導と援助、どちらが重要かという議論に関して、個人的に指導よりも乳幼児期に関しては援助が重要な気がします。赤ちゃんの9ヶ月革命から3項関係を築く過程や、次の段階である異年齢による学び合い関しても、藤森先生が言われるように環境を用意することが必要であり、いかに子ども集団を作れる環境を設定るするかが大切ですね。そうした乳幼児期の経験の中で多様な文化を学び、それを社会に活かしていくのだと思います。親が子に文化を伝えるというのも一理あるのかもしれませんが、私個人の経験では親よりも地域の存在が大きいと思います。もちろん文化と言ってもいろいろな分野があるので全て網羅するのは難しいと思います。だからこそ親だけでなく、幼稚園、保育園、学校、そして地域と子ども達を取り巻く環境全てから学ぶのだと思いました。

  9. 人という環境として重要になるは、子ども集団であるという考え方を大切にしなければいけませんね。この人という環境を大人であるとついつい思ってしまいますが、それでは指導という意味合いが強くなってしまうように思います。もちろん、大人は大切なのですが、子ども集団の中で生活できるような援助をしていくことが私たちの役割であるということがまさに、藤森先生が考えておられる人としての環境だなと改めて感じました。ミードは文化は親から子どもへ伝えられるものだと考えているのですね。これからどのような展開になっていくのか楽しみですが、親が全てであるというのはこれまでの話からすると違和感を感じますが、どのようになっていくのでしょうか。

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