原初的な自己感覚

現在、ルージュテストを、2歳を過ぎる頃には多くの子どもが通過することができるようになり、2歳前後になると、恥ずかしがったりするなど、自己と関連するような感情を示すようになり、また、自分の名前を呼ぶようになったりすると言われています。1歳半から2歳頃という時期が、自己の発達の重要な時期のようだと言われています。では、2歳以前の乳児には自己認識がないのか、という研究が近年盛んに行なわれているそうです。他の能力同様、自己認識は乳児にはないと考えられていました。偉大な心理学者であり、哲学者でもあるウィリアム・ジェームズは、乳児は自分と世界が未分化な、混乱した環境の中に生きていると考えていました。しかし、最近は新生児ですら、視覚的な対象に手を伸ばすことが示されているのです。自分の身体と対象とがどのような空間的関係にあるかを認識できないと、このような行動は見られないはずだと考えられます。また、新生児は自分自身の手で頬を触るときと実験者が触る時を区別する知見なども考慮すれば、ある程度は新生児においても自己と世界の分離ができているようです。

これは、ルージュテストで見られるような成熟した自己認識ではなく、生態学的自己の表われと見なされているそうです。生態学的自己とは、「環境の中で分化され、位置づけられ、まわりに影響を及ぼすものとしての自分自身」とロシャ博士は、彼の著書「乳児の世界」で言っているそうです。そして、概念的もしくは表象的な自己ではなく、知覚的な自己のことを指すそうです。人間は、発達早期から、原初的な自己感覚を持っているというのです。

2ヶ月を超えると、自分の身体的動作についての認識ができるようになると、ロシャ博士によって示されているそうです。この研究では、特別な装置を使って、乳児が自分の足を直接見えない状態を作りだし、乳児に二つの映像を見せます。ひとつは、普段のように、乳児の視点から見える乳児自身の足の映像です。もう一つは、それを上下反転した映像です。これは、乳児の視点からではなく、乳児と相対した大人の視点から見た乳児の足の映像です。この映像はライブ映像なので、乳児が自分の足を動かすと、映像中の足も動きます。片方の映像では、普段乳児の視点から見ているように自分の足が動き、もう一方の映像では、それとは異なったように足が動きます。

乳児が自己の身体を把握しており、その身体がどのように動くかについての期待を持っているとすれば、普段とは異なる後者のほうの映像を見るはずです。この実験の結果、3ヶ月以降の乳児がそのような反応を示したそうです。すごいですね。生後3ヶ月と言えば、ほんとうに生まれたばかりという感じです。

2ヶ月以降で見られる自分の身体についての行動は、言い換えると、自己の身体を探索し、確認する行動とも言えると森口は言います。ピアジェの第一次循環反応と類似していますが、ロシャ博士は自己に着目して議論を行なっているそうです。ロシャ博士によれば、2ヶ月頃に、生態学的自己のような知覚レベルの自己認識から、鏡像自己認知で見られるような表象的な自己認識への発達の兆候が見られると言っています。

私が、経験から、どうも乳児は早い時期から自己認識をしており、鏡に映る自分の顔を他の人が映る姿と区別していると感じていることは、表象的な自己認識への発達の兆候であるというとらえ方をロシャ博士はしているようです。