革命

他者もしくは他個体の意図を理解・共有する能力は、人間において特に発達しているのです。そして、他者が意図を持った存在だと認識し、それによって他者と共同作業できるようになったことの一つのあらわれが、三項関係だというわけだと言います。事実、他者の意図理解は、生後1年ぐらいでできるようになるのです。意図理解に関する先駆的な研究は、新生児模倣について研究したメルツォフ博士によるものだそうです。この研究では、乳児に二つのパートから成り立つダンベルを、実験者がはずそうとしていますが、結果的に外せない様子などを見せてます。その後、乳児に同じ道具を与え、どのような行動を示すかを検討したのです。この場合、乳児が他者の意図を理解できているのであれば、乳児は他者がしようとする行為を再現することができるはずです。この実験の結果、18ヶ月児は、他者の意図を汲んで、ダンバルを二つのパーツに分けられること、ただし、機械がそのダンベルを二つのパーツに分解している様子を見ても乳児はパーツを二つに分けないことを明らかになったのです。近年は、12ヶ月以下の乳児でも他者の意図が理解できることが示されているそうです。研究によって、意図という言葉を使ったり、使わなかったりだそうです。おおむね9~12ヶ月頃に他者の意図を理解できるようになると言われているのです。

他者が意図を持った存在であると言う理解を獲得することによって、乳児は他者と注意や意図を共有し、道具に共同で働きかけることができると言うのです。他者の視線を理解するにしても、他者の指さしを理解するにしても他者が意図を持った存在であるという理解があってこそなされるわけなのです。つまり、9ヶ月を過ぎる頃から、乳児は他者の意図を持った存在として認識し、他者との三項関係を築くことによって、人間が培ってきた文化の中に参入し、その文化の中で学習するとともに、文化の担い手になるということになるのです。言い換えると、この頃に、他の動物とは異なった他者認識能力を獲得し、人間らしさを特徴づける精神活動に参入することができるのです。

これが、トマセロの言う、「9ヶ月革命」です。

文化に参入することで乳児は心理的道具としての言語を獲得することができ、言語やその他の記号を用いたコミュニケーションを通じて、様々な知識や情報を吸収し、より複雑かつ抽象的な思考が出来るようになるのです。特に、乳児は他者とコミュニケーションをし、時にはコミュニケーションに失敗しながら、さまざまな視点を取り入れ、例えば、誤信念課題の通過に見られるような心の理論を発達させていきます。また、カミロフスミス博士は、知識を様々なレベルで再記述できたりするようになると言っています。乳児は社会や文化を通して学ぶ、社交的な存在であるわけだと森口は言っています。

乳児は、9ヶ月革命によって、他者の意図を理解できるようになるということは、例えば、他の乳児がある玩具で楽しく遊んでいる場面を見たとき、その楽しさに共有することによって、自分はその玩具で遊ぶ気持ちをコントロールしているのではないかと私は思っています。他の自分より幼い乳児が、大人に抱っこされているのを見て、他の乳児の意図を理解して、自分が抱っこされたい気持ちを抑えているのではないかと考えています。ですから、この時期から感情抑制力をつかさどる脳機能の拡大が行なわれるのではないかと私は考えるのです。