9ヶ月

いよいよ私が最近特に興味を持ち、いままで何となく思っていた色々な仮説が、納得いくものになった考え方を紹介します。それは、「9ヶ月革命」です。この考え方を強く主張しているのが、やはり以前に特集で何日にもわたって取り上げたトマセロです。「9ヶ月革命」という言葉も今年の6月に初めて紹介しましたが、当時は、その言葉自体にはあまり注目をしませんでした。しかし、脳の機能の拡大のグラフの中で、エモーショナルコントロールという脳機能の拡大のピークの時期を知ったときに、この9ヶ月という時期とリンクすることに気がついたのです。

最近の研究により、9ヶ月から12ヶ月頃にかけて乳児は他者と何かを共有するという三項関係に参入することができることがわかってきました。この変化の重要性を強調する研究者は多くいます。ちなみに私も非常に重要視しています。その代表的な存在が、「ヒトはなぜ協力するのか」とか、「コミュニケーションの起源を探る」という本を2013年に出したマイケル トマセロです。彼は、心理学を含む様々な領域の研究を行ない、世界中に大きなインパクトを与え、近年では最も影響力のある研究者の一人だと言われています。彼は、ヴィゴツキーにも影響を受け、人間における文化伝達の理論を構築しています。また、人間と人間の近縁種であるチンパンジーなどを比較することを通して、人間と他種の違いは、人間特有の文化的継承に見られると指摘しています。ヒト特有の文化継承には、累進的な文化進化プロセスと社会制度の二つの側面があると考えています。社会制度の側面とは、規範や慣習など、それぞれの集団に所属する個人が従うべきルールのことだと説明しています。それについては、2015年の4月あたりのブログで「ヒトはなぜ協力するのか」という本を取り上げたときに、説明しました。

では、もうひとつの累進的な文化進化プロセスとは、誰かが発明したものを、別の誰かが忠実にそのまま受け継いだ上で、その発明品を改良していくプロセスということです。ここでの発明品とは、ヴィゴツキーの道具に対応しており、ハンマーのような物理的道具も、言語などの心理的道具も含まれます。トマセロ博士によれば、人間以外の生物も発明はするし、広い意味での文化的継承は生じると言っています。ただ、人間の特徴は、誰かの発明を継承し、それを蓄積してよりよいものを構築する点だというのです。いわば、歴史的な視点の重要性を強調しているわけだと森口は言います。

累進的な文化進化プロセスは、模倣による学習や共同作業による学習などでなどでなされますが、これらの学習の基盤にあるのは、人間特有の他者認識能力です。人間特有の他者認識能力とは、人間が、他者を、自分と同じような意図や精神生活を持っているものとして理解する能力であるとトマセロは説明しています。さらに、その意図や目標を他者と共有する傾向のことだとしています。

他者の意図を理解し、共有するからこそ、他者の行動を模倣できますし、教育から学ぶことができると言うのです。また、他者が意図を持った存在だと見なし、目標を共有するからこそ、共同作業や協力行動ができるわけだというのです。眼前の他者から学ぶことはもちろん、書物や道具そのものを通じて、私たちは間接的にも他者から学習できるのも、それらの意図や用途を汲むことができるからなのです。このような他者もしくは他個体の意図を理解・共有する能力は、人間において特に発達しているのです。