二項関係での他者認識

ウッドワード博士らは、同じパラダイムを用いて、リーチングできない3ヶ月の乳児は他者の行為の目標を理解できないこと、3ヶ月の乳児にリーチングの訓練を施すと、他者の行為の目標を理解できることを示しているそうです。また、板倉博士と鹿子木博士は、6ヶ月児において、リーチング能力と他者の行為の目標を予測する能力の間に関係があることを示しているそうです。この結果は、乳児の他者認識の指標です。他者の視線への感受性、随伴性の理解、行為の目標の理解は、コアノレッジ理論における他者の領域における代表例であると森口は確認しています。ただし、森口は、人間の乳児だけでなく、チンパンジーなどの近縁種も持っているそうです。人間に特有の中核的な知識とは言えないのではと考えています。

このように、生後6ヶ月までに、乳児は様々な他者認識を示すことが明らかになっています。私は、乳児からこの能力を持っているということは、かつて人間は乳児からさまざまな人との関係の中で育てられてきたためであるという気がしていますし、また、この能力を伸ばすためにも、様々な他者との触れ合いが大切ではないかと思っています。しかし、この時期の乳児と他者の関係は、あくまでも二項関係のなかでと言われています。あくまでも乳児と他者の1対1の関係だと言われています。乳児と他者が何かを共有しているわけではないというのです。

一方、生後9ヶ月頃から見られる他者認識は、乳児と他者と「何か」の三項関係になると言われています。例えば、乳児と母親は、絵本を共有することができますし、父親が変な髪型をしていたら、それを指さして一緒に笑うことができます。このような、乳児と他者が何かを共有するような関係は、今年の6月のブログで取り上げた、三項関係です。6月には、トマセロやこの研究の中心であるウッドワード博士の研究も紹介しましたので、今回は簡単にします。

この三項関係について、森口は、乳児が行なう指さしについて、こんなおもしろい例を出しています。レオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれた「岩窟の聖母」という絵画があります。この名画は、イギリスのナショナルギャラリーとフランスのルーブル美術館にそれぞれ所蔵されていて、しかも、その二つには異なる部分があるそうです。その一つが、絵画の右端の天使が指さしをしているかどうかです。この指さしがヨハネを指しているのか、イエスを指しているのか、また、この指さしは何を意味するかなど色々と推測がなわれているそうです。指さしひとつで解釈が色々と生まれるほど、人間にとって指さしが需要な意味を持つということかもしれないと言うのです。

また、この三項関係から社会的参照を説明しています。例えば、乳児が初めてゴキブリを見たとします。乳児はゴキブリを見たことがないので、これが自分にとって安全なものなのか、危険なものなのかわかりません。このような状況で、乳児は母親の行動を参照します。つまり、対象の価値を決める際に、同じ対象に注意を向けた他者を参照するという意味で、共同注意行動とも言えます。この際に、母親が鬼のような顔をしていたら、乳児はこの対象は自分にとって危険なものだと認識し、その対象から離れます。逆に、母親がその対象に足して微笑んでいたら、その対象に近づくことになります。

私は、乳児のそのような行動から、慣らし保育の時期には、乳児を一生懸命に慣れるようにすることではなく、保育者と養育者が親しげに乳児の前で話すこと、養育者の安心した表情で乳児を保育者に預けることが必要だと主張しているのです。