目標理解

最初は、乳児が声を出せば母親も声を出して応答し、微笑みかければ母親も微笑み返すというやり取りがあったあと、母親が何も反応しなくなったら、乳児は、どう反応したのでしょうか?もし乳児が、他者は自分の行為に反応してくれる存在だと認識していれば、母親が無表情になったら、乳児は変化を検出し、母親が応答してくれないのでつまらない様子を見せるはずです。実験の結果、乳児は、母親が無表情になると、顔をそむけたり、負の情動を示したりしたそうです。このような研究によって、乳児が生後2ヶ月くらいから社会的随伴性に対する感受性があることが示されたのです。これは、間主体性と呼ばれる「二者関係において互いに相手の主観的なものを把握できること」の始まりとも言われ、その意味でも重要な研究結果だと言われています。

もうひとつ、6ヶ月頃に見られる重要な発達的変化は、他者の行動が目標志向的であることの理解だそうです。心の理論研究において、目標志向性の理解は、他者の行為理解の最も基礎的な要素だと考えられ、近年は研究が増加しているそうです。人間の複雑な行動は、目標志向的です。漫然となされるのではなく、何か目標に対して働きかけていると言われています。他者が手を伸ばしている様子を見たときに、その先に時計があるとしたら、私たちはその人が時計に対して働きかけているなと思います。このように私たちにとって重要なのは、行為そのものではなく、行為の先にある目標であると言われています。

この理解が乳児期からできることを示したのが、ウッドワード博士だそうです。彼女は、馴化、脱馴化法を用いてこの問題を検討したそうです。実験では、ボールとぬいぐるみの二つの対象が置かれています。二つのうち、一方に実験者が手を伸ばす様子を乳児に見せます。例えば、実験者がボールに手を伸ばすとします。これを何度も提示されると、乳児は飽きます。そこで、ボールとぬいぐるみの配置が変えられ、二つのテストを用意しました。一方のテストでは、場所は変わっているけれど、ボールに手を伸ばしているという意味では馴化試行と同じです。こちらを場所変更刺激とします。もう一方のテストは、実験者は、ぬいぐるみに手を伸ばします。こちらは馴化試行と場所は同じですが、物体は異なります。物体変更刺激と名付けます。

もし乳児が物体の位置の変化に対して敏感なのであれば、場所変更刺激に対する注視時間が長くなり、もし乳児が実験者の目標の変化に対して敏感なのであれば、物体変更刺激に対する注視時間が長くなるはずです。実験の結果、乳児は物体変更刺激をより長く見つめていたそうです。実験者の目標が変化したことに驚いたのです。面白いことに、人間の手の代わりにマジックハンドを使った場合には、脱馴化しないことも示されたそうです。

最近の研究では、目標志向的な行動の理解が、乳児自身の目標志向的行動の発達と関係していることが示されているそうです。対象に対して、上手にリーチングできる乳児は、他者が対象に対してリーチングすることを理解できるということです。ウッドワード博士らは、同じパラダイムを用いて、リーチングできない3ヶ月の乳児は他者の行為の目標を理解できないこと、3ヶ月の乳児にリーチングの訓練を施すと、他者の行為の目標を理解できることを示しているそうです。