他者の信念

バロン・コーエン博士らによって開発された誤信念課題は「サリー・アン課題」ですが、これも以前のブログで紹介したように、サリーがボールをバスケットの中に入れ、その場を退出したあとアンが登場し、ボールを箱に入れ替え退出します。そして、再びサリーが戻ってきたとき、ボールを取り出そうとしてどちらを開けるかという課題です。この課題を幼児に与えると、3歳児は、サリーは箱を探すと答え、サリーがどのような信念を抱いているか正しく推測できませんでした。それを、4歳半頃になるとこの課題を通過できることが示されたということです。一方、この課題の非言語版を、チンパンジーを対象に行なったところ、この課題を解決できませんでした。

この課題とともに用いられるのが、スマーティ課題です。鍵をしまっておこうと食べ終わったお菓子の箱の中に入れます。その場を立ち去ったあと、他の人が入ってきて箱を見つけます。その人は、箱の中に何が入っているか推測するかという課題です。箱の中にお菓子が入っていると思うのが普通ですが、3歳児は、その人の信念を正しく推測できず、中に鍵が入っていると思うと答えてしまい、5歳児頃にかけて正しく遂行できるようになるという課題です。

このような理解は、ウェルマン博士は、2歳頃は、欲求心理学に基づいた理論を持つと言います。つまり幼児は、他者の行動は、その人の欲求に基づいて引き起こされると考えているというのです。この段階では、幼児は他者の欲求を理解できますが、信念を理解することはできません。2歳児にサムという少年に関する以下のようなストーリーを与えました。

「サムは、学校にウサギを連れて行きたいので、ウサギを探しています。ウサギは、2カ所のうちのどちらかの場所に隠れています。サムはそのうちの一カ所を探そうとしています。」

子どもに二つの質問をします。一つは、サムが探した場所でウサギを見つけた場合です。もうひとつはサムが探した場所で犬を見つけた場合です。その際に、幼児に、「サムはもうひとつの場所を探すかな?それとも学校に行くかな?」と尋ねます。もし幼児が他者の欲求を理解しているのであれば、サムの探索行動は、欲求によって引き起こされており、欲求が満たされればその探索行動は終了することを理解できるはずです。つまり、一つ目の場合には学校に行くと答え、二つ目の場合にはもうひとつの場所を探すと答えるはずです。その結果、2歳児でもこの課題を遂行することができたそうです。

ウェルマン博士の考える心の理論の二つ目の段階は、他者の欲求も信念も考慮できるのですが、信念についての理解が不十分な段階と考えました。こんな課題を行ないました。

「エイミーは、棚の上に本があると思っており、箱の中には本がないと思っています。本が読みたいエイミーは、どこを探すでしょう?」この課題は、3歳頃に通過できるようになります。そして、第3段階で誤信念課題に通過できるようになり、他者の信念が行動を引き起こすことを十分に理解できるようになると考えたのです。

次の説は、他者の心を推測するために、自分の視点から考えるという「シミュレーション説」です。