社会集団と脳の進化

近年、大きな社会集団を形成することが、人間の脳の進化の原動力だという考え方が注目を集めているそうです。脳が進化した原因には様々な仮説がありますが、社会集団の大きさと、そこに見られる騙し合いなどの駆け引きなどに焦点を当てたのが社会的知性仮説です。その証拠として、霊長類において、大きな社会集団であればあるほど、その集団の個体の大脳皮質が大きいことが挙げられています。そのことについて、森口は、私がしばらくの間ブログで取り上げていた人類学者ダンバー博士の考え方を紹介しています。彼によると、安定した関係を築ける認知的上限(ダンバー数)は、チンパンジーは50頭程度、人間は150人程度だと言います。その数について森口は、意外と少なく思うかも知れませんが、これは人間が伝統社会を形成していたときの人数なので、テクノロジーが発達している現代とは少し状況が違うのではないかと言っています。

森口はこう言います。「社会集団の中で、人間は時には他者と協力し、時には他者を欺き、また欺かれ、生きています。この視点から人間を見てみると、相手が何を考え、どのように感じているかを想像し、推論する能力が重要であることがわかります。」この能力を「心の理論」と言うのです。これについても、ブログで何度も取り上げていますが、森口の視点からはどのように説明するのでしょうか?この心の理論は、ここ数十年の発達心理学や比較認知科学などでも最も重要なトピックの一つになっているそうです。ウェルマン博士らが乳幼児は素朴な物理学的、生物学的、心理学的知識を持っていることを明らかにしましたが、この心理的知識に該当する部分が、心の理論なのです。

心の理論とは、繰り返しになりますが、他者の行動からその背後にある心的状態を推測し、その次の行動を予測するための理論であると説明します。心そのものは見たり触れたりできないので、私たちは推測するしかありません。ここでの心的状態とは、相手の知識、意図、欲求、信念などを指します。相手の考えを推測できれば、私たちはその人の行動の意味を理解し、次に何をするかを予測し、その人に対応できるのです。相手の振る舞いから、おなかが空いていることが推測できれば、その人の元気がない理由が理解できますし、昼食を食べるだろうと予測し、昼食を食べる場所を紹介できるのだという例を出しています。

では、他者の心を推測する能力は、いつ頃獲得されるかについてどう考えているのでしょうか?心の理論研究は、最初はチンパンジーの研究から始まったのです。人間が他者の心を推測するのは自明ですが、近縁種のチンパンジーはどうなのかという問題から取り組んだそうです。心理学者プレマック博士らは、サラというチンパンジーを対象に実験し、その後、バーナー博士らによって誤信念課題が開発され、これらを通した研究が進んだことは以前のブログで紹介しました。

その結果、4歳半ば頃から他者の信念を正しく推測することができるということがわかりました。では、このような理解は、どのように獲得されていくかということについて、森口はいくつかの考えを紹介しています。

まず、ウェルマン博士によれば、他者の心の理解は、科学理論と同じように、首尾一貫した理論のようなものだと考えました。子どもは日常的な観察や経験を通じて、他者の心についての「理論」を形成していくと考えたのです。その理論は、単純なものから複雑なものへと変遷していきます。