社会を構成する他者

ピアジェにとって、乳幼児は活動的な存在であり、科学者でした。周りの他者の影響を重要視せず、子どもは自力で発達していくという考えに対して、ヴィゴツキーは大きく異なる考え方を持っていました。彼が強調したのは、社会や文化、歴史の影響です。彼は、子どもの周りにいる他者が育んできた社会や文化は子どもの発達に重要な影響を与えると考えました。彼にとって、乳幼児は社会に開かれ、社会とともに育つ、社会的で社交的な存在だったのです。この考え方も、私にずいぶんと影響を与えています。特に、私はそれをかなり早い時期である乳児から影響していると考えているのです。

ヴィゴツキーは、社会を構成する他者が子どもの発達にどのように影響を与えるかを考えました。その最も有名なものが、発達の最近接領域に関する理論だそうです。この理論では、子どもの発達を二つの水準に分けて考えます。一つは、子どもの現在の発達レベルであり、もうひとつは発達しつつあるレベルです。現在の発達レベルとは、子どもが自分一人でできる、完成した水準のことを指します。発達しつつあるレベルとは、自分一人だけではできず、教師や親の助けを借りればできる水準のことを指し、潜在的な発達レベルとも言えます。

森口は、こんなわかりやすい例を出しています。九九を習っている子どもが、2の段を自力で言えて、3の段は教師の助けを借りれば言えて、4の段に関してはヒントを出されても言えないとしたら、2の段が現在の発達水準、3の段が発達しつつある水準ということになると言います。発達の最近接領域とは、現在の水準と発達しつつある水準の間の領域のことを指します。この理論によれば、子どもは、他者の力を借りることによって、現在の自分の力以上のものを発揮できるのです。そして、他者の力を借りてできることは、明日には自分一人の力でできるようになる可能性があることになります。

森口は、発達の最近接領域を考える上で、二つの重要なポイントがあると言います。一つは、同じ文化内に所属する、自分よりも能力のある構成員こそが子どもの発達を支援することができるという点です。これが、私の考える「異年齢保育」を行なう一つの理由です。異年齢の子どもの存在こそが、「同じ文化内に所属する、自分よりも能力のある構成員」であると考えるのです。もちろん、同じ年齢からの支援も発達には影響をしますが、より刺激が大きいのが異年齢からの刺激だと思うのです。もちろん、子どもと同等の能力を持つ他者(友だち)は、模倣などを通じた相互学習や共同学習によって、子どもが自分ではできないことをできるように導くことも示唆されています。

もうひとつの重要なポイントは、子どもの発達を知るには、現在の発達レベルは現在の発達レベルであり、潜在的な発達レベルを知ることができるような指標が必要だと訴えた点です。

このように、ヴィゴツキーの考えでは、他者が子どもの発達に重要な影響を与えるということです。では、具体的にどのような影響を与えると考えたのでしょうか?彼が特に重要視したのが「道具」と呼ばれるものだそうです。彼の言う道具とは、ハンマーのように物理的な道具も含みますが、心理的な道具も含むと考えています。