ヒトも含めて、結構な大きさの能を持つ動物が、なぜ立派な能を持っているかというと、今自分が置かれている状況で最大限有利になるよう行動を微調整するためだというのです。それは言い換えれば、行動戦略を方向転換できるような選択肢があるかということだとダンバーは言います。つがいになる相手を誰にするか、その関係をいつまで続けるかは、動物自身の選択だというのです。その背景には、今のパートナーと一緒のほうが、利益が大きいか、相手を変えたり、いろいろな異性と微妙な駆け引きをするほうが得なのかといった判断が働いていると言うのです。もちろん、ヒトだって例外ではなさそうです。
人も単婚種のほかの動物と何ら変わりはないとダンバーは言います。オスは、メスがこれから産むすべての子どもの父親でありたいわけですが、それには慎重を要します。子作りは押しつけるものではなく、協力し合うものだからだと彼は言います。無理矢理ですと、メスは逃げていくだろうと言います。カリフォルニアに生息するイグアナの仲間であるチャクワラの場合、オスが縄張りを守ることに必死で攻撃ばかりしていると、メスが縄張りに入ってこられないため、交尾の回数が減るというのです。ミシガン大学のバーバラ・スマッツの観察によると、ヒヒ社会でも攻撃性が強すぎるオスは、メスに敬遠されたそうです。優しく接してくれるオスのほうが好まれたそうです。
単婚動物の特徴でもあるオキシトシン、別名「愛着のホルモン」をめぐっては、これまでもマスコミが盛んに取り上げてきました。しかし、オキシトシンがそういう効果を発揮するのは、メスだけのようです。オスに働きかけるのは、オキシトシンの仲間であるバソプレシンの方だそうです。バソプレシンは、単婚種のオスの行動を制御するうえで重要な役割を果たしているそうです。オスのラットの脳にバソプレシンを注入すると、攻撃性が和らいでメスや子どもに対して優しくなり、身体を密着させたがるそうです。では、ヒトではどうなのでしょう?ただしヒトは単婚か多婚かの判定が容易ではないと言います。ですから、ヒトのオスはみんなバソプレシン濃度が高い、それはつまり単婚であるというわけではなく、多婚的な行動に関して個人差があると言った方がいいだろうとダンバーは言います。
ストックホルムにあるカロリンスカ研究所のハッセ・ワルムらは、スウェーデン人の双子552人を対象に、バソプレシン受容体遺伝子と結婚生活の関係を探ってみたそうです。ここでバソプレシン受容体に関わる領域の遺伝子を詳しく調べてみたところ、RS3という部位が、パートナーへの愛着度と密接に関係していることがわかったそうです。さらに、この部位で見つかった11種類の遺伝子変異のうち、いちばん関係の深いのが対立遺伝子334と呼ばれるものだったそうです、
それは、どういうことなのでしょうか?対立遺伝子334のコピーを1つかふたつ持っている男性、それはすなわち父母のどちらか、あるいは両親から受け継いだということだそうですが、このような男性は、残り10種類の対立遺伝子のコピーをふたつ持っている男性よりも、パートナー愛着度が低かったそうです。また、パートナーと同棲しているものの、正式に結婚していない人が多かったそうです。それは、責任を引きうけていない証拠だというのです。