日本では、最近の乳幼児問題というと、「待機児解消」があります。少し前までは、「少子化対策」が話題の中心でした。もちろんこの二つはリンクしている部分が多いのですが。しかし、この議論は、その中心になる観点が少しずれている気がします。私は、乳幼児問題を考える上で、大切なことは、「21世紀の知識基盤社会において国家の持続的な発展を確保するための重要な課題は、優れた人的資源を養成する」ことにあると思っています。その課題を踏まえた上での待機児解消であり、少子化対策を検討すべきであると思っています。
さらに、優れた人的資源の開発に最も効果的な手段の一つは、教育に投資することであり、特に、OECDでは、質の高い乳幼児教育・保育への提供が社会の経済的効果を高めるだけでなく、 親の育児支援、女性の社会進出支援、乳幼児の教育への機会の拡大と保障、低所得層の乳幼児の教育的な不利益を克服するための助けとなり、教育の機会均等と貧富の格差を解消するため、国家的次元での支援の重要性を強調しているからです。
以前、ブログでも紹介したと思いますが、ノーベル経済学賞を受賞したヘックマンの研究で、乳幼児期が他の時期に比べ教育の投資効果が最も高い時期であるという認識が示されました。そこで、先進国における取り組みとして、まず、乳幼児期の施設の一元化、そして、幼児教育及び保育の量的・質的サービス向上が挙げられているのです。
まず、一元化については、日本では、幼稚園と保育園という2元化についてかなり昔から議論されてきたところです。ドイツでは、フレーベルが「子どもの園」という施設を開園し、それがキンダーガルテンとして3歳以上就学前までの教育施設として学校局が管轄していました。それに対して、女性の社会進出が進み、乳児から3歳未満児の保育の要望が高まり、その年齢を対象にしたキンダークリッペとして生活局が管轄する施設が作られました。時代が進みに従って、未満児の保育の要望が高まり、学校局によって0歳から6歳までのコープという施設が作られ始めました。すると、0歳から3歳児までの子どもたちは、生活局管轄の施設と、学校局管轄の施設の2元化が起きました。また、生活局でも乳幼児教育が必要だということで、新たに陶冶スポーツ局(教育スポーツ局)を創設し、「子どものための家」という施設に一本化したのです。(これは、私が知っているミュンヘン市での取り組みですので、ドイツすべての州での取り組みではありません)
このように、幼児教育・保育の統合は、同じ年齢の幼児と保護者のためのサービスという側面から多くの国で重要な課題として扱われており、先進国において一元化が進められています。スウェーデンでは、 女性の子育て軽減と家庭の子育て支援のために保育分野での人材育成を強調した教育側面を強化することで、1997年幼児教育・保育の完全統合を成し遂げました。また、フランスとベルギーでは、年齢を中心に統合することで、同じ年齢の乳幼児の場合、共通な行政管理システムと教師養成システムを統合した教育課程を提供しています。ニュージーランドでは、ずいぶんと早い時期に取り組んでいます。1987年、社会福祉部で管轄していた児童保育サービスを教育部に切り替え、幼保統合を実現するとともに幼稚園教師と保育教師の養成課程を統合することで完全統合を果たしています。その他、台湾でも、幼・保養成課程と行政システムの統合及び教師養成の統合を試み、効率的で未来志向的な人材育成を追求する一方、 家庭の子育て支援にも力を入れ始めています。