京都大学霊長類研究所の研究は、毎回驚かされます。よくも、人間と同じようなことをするものだと感心します。以前のブログでも書きましたが、遺伝子の99%は人間と同じですから、当然といえば当然です。しかし、同時に、違っている1%の大きさにもびっくりします。たった1%で、こんなにも違うものだということ、また、その違いがどのようなものなのかを考えさせられます。最近の報道で流れた実験は、隣の檻にいるチンパンジーが欲しがる道具を渡す姿です。しかし、人間と違うところは、先を読んで、推測しては渡さないということです。頼まれなくとも、やってあげるのは、人間の特徴なようです。
そんな人間の他の霊長類と違うところは、どうやって進化していったのかということが研究されているのです。このようにヒトとサルの違いがあるのですが、ヒトも含め、サル、チンパンジー、ゴリラといったいわゆる霊長類といわれる生き物の仲間は、赤ちゃんのころはとても似ているということが知られています。それが、大人になるとずいぶんと違ってきます。しかし、それぞれの種で、その姿かたちや行動の性質などについて、赤ちゃんのころと大人になってからの特徴をいろいろと比較すると、ヒトは、概して、その差が最も小さいのだそうです。つまり、ヒトは、子どものころの特徴を多く残したまま発達し成熟するというちょっと変わった特質を持っている種だということになります。それは言い換えると、私たちヒトは、大人になっても子どもっぽさが残っているということです。こうしたと気質を専門的には幼形成熟(ネオテニー)といいますが、なぜヒトに備わったかについてはいろいろと議論されています。
東大大学院准教授の遠藤氏は、なぜ備わったかということについてこう考えています。「子どもっぽい姿かたちというよりは、子どもとしての心、あるいは子どものような心が、ヒトが、進化の舞台において生き残り、適応するのにとてもプラスに働いたのではないか。ここでいう子どものような心とは、たとえば警戒心や攻撃性が比較的弱く、人懐っこくて、すぐに仲間と打ち解け、無邪気にじゃれあえるというような気持ちの性格です。」
生き物は、生きていくうえで、生き残るための特性を備えるように進化していきます。そういった進化の過程で、私たち人類は、大人になってもなお弱々しい子どもっぽい身体の特徴が残っているというのは、なぜでしょう。子どものような心を長く持ち続けることで私たちヒトに何が可能になったのでしょうか。警戒心や攻撃性が弱いままでいることは、他の生き物との関係では不利になります。
他の生き物との関係では不利な特徴が、同じ人間同士の間では、他の仲間との関係や集団の和を保ち、常に仲良く協力しながら行動できるようになることを意味していると遠藤氏は考えています。関係や集団を形成し維持するには、まさに子どものように警戒心や攻撃性が弱いほうが圧倒的に有利だったのです。一人はどんなに弱くても、相互に気遣いながら集団を成していれば、一人ひとりが単独で攻撃や防御をなしうる力よりも優れます。
発達は、右肩上がりに成熟していくことだけでなく、遺伝子を子孫に残すために、有利に変化していくということがわかります。それは、一人のヒトの一生における発達においてもそうであり、人類の進化という面から見てもそうであるように思えます。