世界の保育カリキュラムの中で話題になっているものに「レッジョ・エミリア・アポロ―チ」というイタリアで行われているものがあります。その保育では鏡を多用することでも有名ですが、以前ブログでなぜ鏡が子どもに必要なのか、鏡を見ることがどの様な効果があるかについて書いたことがありましたが、結論としてはいろいろと調べてもよくわからなかったことを思い出します。しかし、また最近鏡について興味を持ったのが「ミラーニューロン」の存在です。ミラーという鏡がキーワードだからです。その意味を、数日前に紹介した「化粧する脳」(茂木健一郎著)の中で説明をしています。
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 人は皆、人格を持っていますが、その人格は一つのものではなく、多面的なものです。その時に、自分の姿、顔を鏡で見る時、そこにある一つの人格を見ることができます。茂木さんは、「“わたし”のイメージを考える時、まず私たちは、“わたし”の顔を無意識のうちに貼り付けているものだ。鏡が私たちの自己イメージ、自己意識の進化や発達に非常に大きな影響を与えていると考えられる。」と言っています。すべての動物の中で自己意識を持つ人間だけが鏡を常用するからだと言います。自己意識を持つからよく鏡を見るのか、鏡をよく見るから自己意識を持つのかよくわかりませんが、確かに水仙の花の由来のナルシスも自己意識が強かったですね。
 では、他の動物も鏡を見せると自己意識を持つかというと持たないようです。というのは、鏡に映っている姿を自分の姿だと認識すること自体、かなり高度な認知能力なのだそうです。今のところ、鏡に映った自分の姿を自覚できるのは、人間のほか、チンパンジー、オランウータン、イルカ、シャチ、アジアゾウ、といった限られた動物だけだそうです。どうして、それがわかるかというと、「ミラーテスト」という、方法があるそうです。このテストは、人間のセルフ。アヴェアネズ(自己覚知)や意識の研究に新たな方向を持たせることになったそうです。鏡を動物に見せると、その後ろに違う動物がいると思って威嚇したり、裏に回って相手を探そうとします。しかし、もしかしたらその姿は自分かもしれないと思って、いろいろなしぐさをしてみます。この鏡に対する社会的行動から、自分に対する行動に移行する時が一番鏡に向かう時間が長くなるそうで、たぶん、その時間の中で脳の神経細胞のネットワークのつなぎ換えが行われていると考えられています。その結果、鏡の中の姿は自分だと分かった瞬間とたんに興味が失せてしまうそうです。
 もうひとつ、このミラーテストにパスする動物は、道具を用いる高い知能が確認されていますが、同時に「共感能力」が高いという点も共通してみられるようです。たとえば、アジアゾウはミラーテストにパスしていますが、よく映像で見ることができるように、仲間が沼地に足を取られていたら、助けようとする行動がみられるように共感能力が高いようです。ミラーテストをパスする動物は、自己を認識する能力と、他者の心や考えを推量できる共感能力が発達していると考えられます。ということは、自己認識と他者理解は共にミラーニューロンが深くかかわっているのです。
 他者の顔の表情を見て、他者の心を読み取るときに、ミラーニューロンで感覚と運動の統合が行われ、それらが他者と柔軟にコミュニケーションをとる人間の驚くべき能力を支えていると茂木さんは言います。そして、人間は、感情の幅や豊かな経験やさまざまな状況を想定するイマジネーションが備わっているからこそ「他者の心を読み取る」ことができ、その本質が他者とのコミュニケーションをする社会的知性に表われるのです。
 個の確立と集団における他者理解とは深い関係があるのです。少子社会は、人間としての進化に影響を及ぼします。

” への5件のコメント

  1. レッジョエミリアの実践記録である「子どもたちの100の言葉」にこんな記述があります。『子どもは最初に生まれてから、自己のアイデンティティーを築くための長くたゆまぬ努力を経て、まるでもう一度生まれてくるかのようです。このプロセスで子どもは自分自身に顔、体、身振り、行動、言葉、思考、感情、想像力、空想力を与えていきます。要するに、それは「存在の自覚」であり、「表現の情念」「自己の意識」です。子供が自律性を持ち、他人や他の物から自分自身を区別できるようになるために、それはどうしても必要な要素なのです。私たちは他の人々や物と関わって暮らしながら、そこから少しずつ、自分自身のアイデンティティーを創り上げる材料を大部分引き出しているのです。それは自分自身を認識し、他者からも認識されるためなのです。とりわけ、この他人の中に自分を見ることは子供にとって最も強く求められたゴールです。』

  2. 他者の顔の表情を見て心を読み取るというのは一見簡単なようにも思えますが、考えれば考えるほど複雑な行為だと思えてきます。相手が感じている感情をそのままその通りに自分が感じることはできないので、その感情を想像するしかありません。自分のことですらなかなか理解できないのに、相手の、しかもどう考えても分かるとは思えない感情を推測することができるわけですから、本当に不思議です。ミラーニューロンの働きとイマジネーションが関わりの中で磨かれていくと考えると、少子化の影響は本当に大きいですね。共感する力と関係があるという鏡についても、あらためてじっくりと考えてみようと思います。

  3. 鏡は毎日見ます。しかも1回や2回にとどまりません。普段何気なく行っている行為ですが、いざこの事実を考えるとあれこれと脳裏に浮かび上がってきます。鏡を見る回数が多い人はおそらく他人からどう観られているだろうかを意識している、いわゆる他人軸で生きている人ということになるのでしょうね。よくも悪くも他者存在を抜きにしては生きていられないということなのかもしれません。「共感能力」についても確かにブログに書かれているようにしっかりと持っているような気がします。おそらくは私のミラーニューロンも一生懸命信号を発していることでしょう。そして常に他者を通じて自己確認を行っている。「個の確立と集団における他者理解とは深い関係があるのです」とはまさにその通りですね。

  4.  鏡は生活には欠かせない物の一つです。自分の身だしなみを整える時に使いますし、子どもも鏡を見ながら身だしなみを整えますし、食事の後に口の周りが汚れていないか確認する為にも使います。
    自己認識と他者理解がミラーニューロンと深く関わっていると書かれていますが、ここまでミラーニューロンが関わってくると、私の頭では整理できないくらい複雑です。ただ、人と付き合う上で、他人の表情を見て、心を読み取るのは、大切な行為です。現在の少子化の状況を考えると、人間としての進化に影響を及ぼすのは、何も子どもだけでなく、大人にも関わってくると思います。

  5. たしかに当たり前のように鏡を見ていましたが、とても高度な情報処理をおこなっているんですね。しかし、それもミラーニューロンが関わっているというのは興味深いですね。しかも、「ミラーテスト」にパスしている動物は共感能力が他よりも優れているというのはとても面白い現象です。自分で鏡を見て認識することより、他者の顔を見て他社理解をしようとすることは脳にとってとても大きな刺激になるんですね。子どもたちが生活する中で集団というのは一見、かかわりがないと思われがちですが、とても多くのことを学んでいるというのが分かりました。

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