もしドラ12

 いよいよ「もしドラ」の最後です。
組織で働く人たちの大半は、一所懸命に働き、多くのことを知っているにもかかわらず、十二分に効果的である人はまれであるとドラッカーは言います。それは、そもそも組織というものが極めて最近の発明であるために、人間はまだそれらのことに優れるに至っていないからであると言います。一人だけの工房で、一人だけで行う仕事の場合には、仕事が成果を上げる人物を作り上げるのに対して、組織では、成果を上げる人物が、仕事を作り上げるのです。その組織が、効果的だあるために第1歩は、「なすべき正しいこと」を決めることだと彼は言います。有効性とは、物事を正しくなすことであり、そもそも正しいことをしない限り、生じえないものなのです。正しくなることをするためには、優先すべきこと、つまり集中すべきことを決めなければならないのです。何を優先すべきかは、何回も彼が強調するように、自分が強みを持っていることをしなければならないのです。
 この強みをはっきりさせるものは成果ですが、その時、好きなことと、うまくやれることの間には、ある程度の相関関係があります。さらに強い相関関係があるのは、自分の嫌いなことと、うまくやれなこととの間であると言います。しかし、ドラッカーは、一件その相関関係と違うように見える例を出して、大切なことを言っています。それは、とてもおもしろい考え方です。相対性理論を打ち出した天才と言われたアインシュタインは、シンフォニーオーケストラで弾けるほどバイオリンの才能が得られるのであれば、なんと引き換えてもよいというほど弦楽器が好きで、日に4時間も弾いて楽しんでいました。それに引き換え、数学をやるのは嫌いだといつも言っていました。しかし、彼が天才だったのは、数学においてだけであったのです。どうしてでしょう。それは、自分が持っている強みとは、技術ではなく、受け入れる能力であるとドラッカーは言うのです。したがって問題は、読めるかどうかではなく、読む人である、聴く人であるかということであると言います。
 これは、どういうことを言っているのでしょうか。組織で働く人は、人との関係において、どのような力が必要かということです。最近、引きこもりと言われる人が多くいることが問題になりました。それは、人といることのストレスが耐えられない人のことを言う音が多いようです。それは、どんな力が足りないのでしょうか。ドラッカーは、人との関係に素晴らしい力を持っているということは、十分に聴くことができることであると言うのです。これは、会議などで実感することです。いかにも人前で話すことが上手だとか、難しい本を読むことができるとかいう人は、それだけでは人を説得したり、感動させることはできないのです。
 人は、自分の生涯をどう割り振るかは、自分の責任です。他の誰も自分のためにそれをやってくれることはないのです。そして、その人生のパターンは、二つあると言います。一つは、人間そのものの開発と、技術や能力や貢献する能力などの開発で、この二つのことは互いに全く別の問題であると言います。自己開発は、指導することによってはじまるのではなく、奉仕することによってはじまり、また、自分の外の存在としての理念に向けて努力することによってはじまります。それは、そもそもリーダーは、生まれつきのものではなく、またつくられるものでもなく、自分で作り上げるものです。自己開発は自分自身の責任であるのです。そして、自己開発を効果的にするためには、まず、改善が必要であり、変革が必要です。変革の時を知らせるシグナルに耳を傾け、困難に陥った時ではなく、成功しているときにこそ変革を行わなければならないのです。
 ドラッカーは、「非営利組織の経営」という書の中で最後に「自己開発は、哲学でもなければ、よき意図でもない。そして、自己組成は、心地よい満足ではない。いずれも行動である。」そして、「あなたは、より大きな人間になる。しかし、何にもまして、あなたは、より効果的で、より献身的な人間になるのである。」そして、「明日、あなたは何をするか、そして、あなたは何をやめるか。」と自らに問いかけることを訴えて本書を閉じています。