シンガポール報告14

よく見守る」というと、子どもを見ているだけだと思う人がいるということを聞きます。しかし、goo国語辞書やデジタル大辞泉には、子どもを見守るというように使うときには、「無事であるように注意しながら見る。また、なりゆきを気をつけながら見る。」とあります。また、大辞林 第三版には、「目をはなさないで見る。間違いや事故がないようにと、気をつけて見る。」とあり、どこにもただ見ているだけという意味は書かれてありません。今回、シンガポールでの保護者向けのセミナーの説明には、こう書かれてあります。

「子どもを見守るには、子どもを愛し、保護して注意深く観察し、ニーズを特定することです。目標は子どもたちを直接教えるか指導することではなく、誤った行動を修正する時には、すばやく介入することです。そうすることによって子どもたちは次第に自分で考え、様々なことを学ぶようになります。これは、子どもに教えたり、子ども自身でできることをやってあげたり、なんでも与えたりせず、子どもの本来の能力を「引き出し」、育てるための育児のアプローチです。」

今回のセミナーでの私の話の前に、今回主催した「my first skool」からこんな問題提起がされました。「Mommy、 I do not have any friends in school」「Yes、 darling?Why?」「because I do not know how」「I will speak to your teacher tomorrow.」(「ねえ、お母さん、僕学校には誰も友達がいないんだ」「本当?どうして?」「よくわかんない」「わかった、お母さんが明日学校の先生に話してみるわ」)

こんな会話を聞いて、「教育者として、私たちは、この子どもへのお母さんのかかわりが心配になりませんか?」と問いかけています。また、1枚に写真を見せて、会話の時と同様に、「私たちは教育者としてこの写真を見て心配にはなりませんか?」と問うています。そして、私の言葉が紹介されます。「MIMAMORUの育児のアプローチは、子どもを教えたり、できないことを与えたりすることではなく、子どもの本来の能力を引き出し、育むためにこの保育が必要です。」という言葉です。

ここで、なぜ「見守る保育」が必要であるのか、導入の動機は、私たち日本と同様な母子の関係にあるようです。シンガポールは、世界でもトップクラスと言われる学力の高さを誇っています。その役割の一つとして、ECDA(= Early Childhood Development Agency、幼年期開発局)というエージェンシィが行う事業のひとつとして、幼児教育・保育の質の向上をめざす、「SPARK」と名付けられた認証システムがあります。しかし、この評価におけるQRS の項目で測定しきれない部分や違和感を感じた部分を、「見守る保育」の中に見つけたようです。確かに、評価だけでは、質は向上しないのです。特に、考え方、いわば保育における哲学は評価で測れるものではないのです。

先日、ある男子大学生が、卒論として「“見守る保育”の理論と実践に関する一考察」という卒論を持ってきてくれました。彼は、結果の考察として、最後にこうまとめています。

「ただ“見守る保育”という言葉を学ぶのではなく、“見守る保育”の本質、何を大切にしているのかを理解することが学ぶ上で大切だと感じた。“見守る保育”という言葉も素敵だと思うが、言葉よりもその体制と精神を記憶と心に残すことが、良い学びであり、習得のしかたなのではないかと考える。」

若干荒い理解ではありませんが、言わんとするところは、よくわかりますし、大切なことです。

 

 

シンガポール報告13

シンガポールでの講演の最終日の保護者講演は、午前、午後とも3時間という長い講演でしたが、皆熱心に最後まできちんと聞いていました。そして、私の書いた保育者向けの本も随分と多くの方が購入していきました。保護者の中には、有名な芸能人もいましたが、彼も最後まで聞いてくれました。彼については、翌日のホテルにおいてある新聞の一面に、家族と一緒の写真が掲載されているほど有名なようです。そんな有名な人も、自分の子の園の主催の講演会に参加するのですね。また、日本では、熱心な保護者は割と子どもに英語を教えてくれとか、もっと勉強のことをさせてくれということが多いと思いますが、シンガポールの園でも、ニュースなどで紹介される保育でも、受験が非常に厳しく、早いうちからいろいろなことをやらせようとする保護者が多いと聞いていました。しかし、今回の講演を通して、私の、それよりも自発的に行動できる子、子ども同士のコミュティを大切にすること、そんな主張に賛同してくれました。たまたま昨年は韓国で講演したのですが、韓国も同様受験競争が激しく、保護者がそれに向けての教育に熱心な国です。

私は、必ずしも受験競争に反対ではありませんし、ある意味での試験も必要だと思っています。また、学力も必要だと思っています。しかし、講演で主張したのは、今子どもたちは大学の入学試験を受けるわけでも、社会に出るわけでもないのです。子どもたちが、大学入試を受験するころ、社会に出るころに、どんな力が必要になるのかを考える必要があると思っているのです。また、本当の学力とは何であるのか、また、何のために学力が必要であるかを考える必要があることを主張しているのです。それは、保護者講演のまとめで話をしましたが、子どもたちが人生を幸せに送れるように、そして、その時の世界が平和であるように、そんな世界を子どもたち自身が築いていけるように願って、乳幼児期にどのような力をつけてあげたらよいかという、将来を見据えた保育をするべきであると思っているのです。それは、決して、一人ではできませんし、1つの国でできることでもありません。子どもを中心にした社会になることを願っているということで締めました。

このこと自体は直接にはシンガポールの方々には伝わらなかったかもしれませんが、今回、国を超えて私に講演の依頼が来たのは、そのような気持ちに共感してもらえたからだと思っています。この思いは、世界共通なものだからです。

この日の講演を終えて、やっと夜にホテルに閉じこもっての作業がなくなり、夕食後初めてシンガポールの街を歩いてみました。ホテルから出て、しばらく川に沿って下流の方に歩いていくと、遠くの方にライトアップされたマリーナ ベイ サンズホテルが見えてきました。それを目指してなお歩いていくとシンガポールではべたな観光地である上半身がライオン、下半身は魚の像であるマーライオンが、やはりライトアップされた姿を見せてくれました。この像は高さ8mあるそうですが、実は、シンガポールには計7つのマーライオンがあるそうです。この夜には、もう一つ、その背後にあるミニマーライオンもみることができました。ちなみに、次の日は、セントーサ島にある、人が登れる37mの「マーライオンタワー」も見ることができました。

講演が終わって、その解放感というよりも、次の課題が見えてきたこの夜でした。

シンガポール報告12

いよいよ講演最終日です。この日は、午前中に3,4,5歳児を持った保護者向けに3時間、午後は0,1,2歳児を持った保護者向けに3時間講演です。まず、保護者が3時間も聞いているだろうかということが心配でした。日本では、保護者講演の場合は、1時間から多くて2時間講演のことが多く、3時間もやったことがありません。しかも、子ども連れで来て、その間子どもたちは待っているのだろうかという不安もありました。

会場は、1日目と同じ会場で、丸テーブルに座ります。テーブルの真ん中には、風船のディスプレーが置かれてあります。今回の講演会は、オープンではなく、事前申込者に限ったものでした。それは、セキュリティの関係で、入り口では、きちんとチェックしていました。その脇では、「見守る保育」の本の販売をしていました。その並べ方は、以前紹介した紙皿とスプーンの芸術的な並べ方と同じでした。

また、会場のロビーでは、協賛として、乳酸菌飲料がチケットと交換で配られていました。現地では、1本4Sドル(約324円)もします。隅では、待っている子どもたちのために、制作コーナーと、マジシャンによるマジックショーを行うそうです。私は中にいたので、どのように行っていたのかわかりませんが、講演中3時間子どもたちが会場内に入ってくることはありませんでした。

今回、会全体を仕切っている代表はアイリーンさんという非常に頭のいい女性ですが、彼女は会全体を見て臨機応変に進めていきます。今回の話す内容ですが、私は保護者講演の時には、とても気を使います。それは、たとえば、英語教育を早い段階からあまりやらない方がいいと思ってそのことを話したら、その園では早くから英語教育に熱心に教えている園であったらまずいからです。ですから、よく知っている園でしたらいいのですが、そうでない場合には、事前にどのような保育を行っているのか、たとえば異年齢保育なのかなどを聞いておきます。ですから、あまり特殊な、また、私の園での実践は話さないようにします。特に、動画や写真はあまり使いません。保護者はそれがいいと思って、園に要求したり、自分の子どもが通っている園と比較したりしてしまうことがあるからです。そんなわけで、用意した内容は、今後どのような社会になっていくのか、高校、大学入試がどのような問題になっていくのか、そのためにどのような力が子どもに求められているのか、そのために家庭では、子どもにどのように接したらよいかなどを話す予定にしていました。

しかし、アイリーンさんから、事前にメールで、あの時の動画を見せてください、あの話をしてくださいなど送ってきました。それだけならいいのですが、話している最中でも、バンバンと流す動画を要求してきます。そして、どの時間までにまとめるようにとか、タイムスケジュールも指示が飛んできます。私も、すぐに切り替えるわけにはいかず、何とか話の流れをそちらの方に持っていったり、全体の話が通じるように変えていきます。アイリーンさんからすれば、それまでの三日間の話の内容、流した動画、紹介した写真をすべて覚えていて、それを指示してくるのです。私ももともとは、聞き手の顔や態度によって、話す内容を変えていきますし、午前、午後と同じ話でもいいと言われても、自分自身がつまらないので、つい違う話を入れてしまっていましたから、今回のように指示されてもそれほど困らないのですが、通訳は大変だったでしょう。

通訳についても、最初は皆さんにイヤホーンをつけてもらい、同時通訳の予定でしたが、今回一緒に行ったメンバーの中で二人英語が堪能なので、彼らに訳してもらうことになったのです。私は、結果的に良かったと思います。私が話して、区切ってそのあと通訳をしてという間が、聞き手にとって、頭に入れるのに、また整理するのによかった気がしました。

シンガポール報告11

子どもの行動を予測するということは、子どもをよく見ているとできるようになってきます。以前ブログでも紹介したと思いますが、ある蝶の写真家と飲んだ時の話です。彼は、なぜ自分が蝶の良い写真が撮れるのかを私に聞きました。彼に言うのは、技術でもなく、カメラの性能でもなく、蝶の行動が予測できることだと言ったのです。飛んでいる蝶を見ただけで、この蝶は、どこに行って、何をしたいのかがわかるのだというのです。ですから、先回りをして、そこにカメラを向けているので、決定的写真が撮れるというのです。その時に私は、いい保育者とは、子どもが歩いているのを見ただけで、その子がどこに行き、何をしようとしているのかがわかるのではないかと思ったのです。最近、園の職員にその力が育ってきたなあと思うようになったのは、いい動画が撮れるようになったからです。

これらの動画が園にはたくさん保存されています。それは、その動画をみんなで見て研修をしたり、行事の時に保護者に見てもらっているからです。それが、今回のシンガポールでの講演に役に立ったのです。

今回、もう一つ予測する力が役に立ったことがありました。シンガポールでの講演の二日目の会場は、コンサートホールのようなところです。舞台が広く、観客席が傾斜になっていて、操作室が一番後ろの上の方になるホールでした。今回の講演は、パワーポイントで説明しながら、それと関連する動画を織り交ぜていきます。そこで、講演資料は、話す順序に沿ってパワーポイントを構成し、その間に動画を取り入れておき、順に話を進めていきます。しかし、思いがけないハプニングがありました。それは、資料にかなりの動画を挿入したためか、データが壊れているのを朝、気が付きました。

当日のデータは、前日に修正したばかりで順序がバラバラなうえに、さらに、今回一緒に来た私のアシスタントが、会場で急いで作り直したこともあり、何を使うかは話の流れで考えていかなければなりません。事前に私が日本で使うであろうパワーポイントの場面を打ち出しておいたので、それに番号を振り、次はどの画面を使うかをアシスタントに番号で指示したのです。そして、間に「次は、エプロンを自分でしまう動画」と指示して、それを探してアシスタントは映し出さなければなりません。しかも、操作は、会場の一番後ろの操作室で行います。そこで、まずインカムを借り、それで連絡しあうことにしました。しかし、動画を探して、いったんパワーポイントを消して動画に切り替えると、かなりのタイムラグが起きてしまいます。そこで、アシスタントは、2台のパソコンを使うことにしたそうです。片方のパソコンで、話している画面を映写し、その間にもう片方のパソコンで動画を用意します。そして、私の指示に従って画面を切り替えていきます。それを素早くやるためには、私が話の流れで、次はどの場面を使うか、どの動画を使うかを予測していかなければなりません。彼が後で言うには、それがピタッと当たった時の快感は何とも言えなかったそうです。さすが、何年か全国を一緒に講演に回ったパートナーですね。

そんなバタバタの二日目の講演でしたが、反応は良かったです。しかし、会場の作りのせいなのか、今回はサイン攻めというよりも、一緒に写真を撮ってほしいという希望者が並びました。あまり写真が好きでない私は、たぶん顔がこわばっていたでしょうね。

シンガポール報告10

二日目の講演は、理解力10%の園の園長、副園長、英語担当、中国語担当職員に向けて、午前中300名を対象に3時間、午後200名を対象に3時間講演です。そのような参加者でしたので、前日の夜、急いで話す内容の修正を行いました。まず、内容として、1日目を通じて感じたことですが、話す内容はもちろん真剣に聞いてくれるのですが、何よりもの説得力は、子どもの姿の動画です。たとえば、1歳児クラスの子どもたちが、食事が終わって、エプロンを自分で袋にしまうのですが、5月のころの映像では、自分でしまえない子が、先生のところに来て、袋を広げてもらうように頼みに来ます。今回主催した「My First Skool」のCAOが、5月に来園したときにその姿を見ていきました。子どもたちは、見学している私たちにも頼みにきましたし、来客にも頼みにきました。それが12月頃の動画では、かなりの子たちは自分でしまえるようになっています。

また、自分ではまだしまえない子たちは、子どもたちのそばに、「いつでもやってあげるよ」というオーラを出しながら立っている先生を無視して、他の子どもたちに頼みに行く姿が映っていました。しかも、その友達にやってもらった子どもは、誰かにやってもらいたいと立ちすくんでいるこのところに行って、今度はその子の袋を広げてあげたのです。そこで、もう一人の子が、着替えがしまっているロッカーのところに行って何かをしています。その中から上着とズボンを出して、残りのロッカーにしまい、今度はこの動画を撮っている職員のところに駆け寄ってきて、身振りで、「自分の服が濡れたから、その服を脱がして、新しいのを着せてね」と言わんばかりに自分の体を指した姿が映っていました。

先生にやってもらった子、自分でやれるようになった子、友達の助けを求めた子、先生に頼んだ子とそれぞれ子どもたちは選択しています。それは、子どもたちは自分でやれることを知り、また、他人の助けを借りること、そして、他人に援助することなどを経験していきます。社会の一員となる資質を備えようとしているわけですから、教育基本法の1条の教育も目的にあたります。まさに、乳児から教育です。

この動画を1日目に2回見せるように指示されました。それは、どの部分の発達が、どのような場面において促されているかを再度見ることによって、確認できるからです。日本でもよく動画を見せることがありますが、2度同じ動画を見せてほしいと言われたことはありませんでした。それどころか、前に見たので知っていると言われます。しかし、昨日のブログで紹介したように、講演を聞いて、「深く」考えるためには、何度か同じものを見ることによって、より深いところが見えてくるのです。

子どもの様子は、世界共通であることを実感しました。何よりも説得力は、現場での子どもの姿なのです。しかし、私は、このような動画を見てもらう意図がもう一つあります。それは、そこに映っている子どもの姿ではなく、それを撮影している保育者の姿です。最近の動画は、以前のように思いビデオを回して撮る必要はありません。各々が持っているスマートフォンできれいに撮れます。では、どんな場面を、いつ、撮るのでしょう。それは、映っている子どもの姿、行動、それらを予測してスマホを子どもに向けるのです。どの動画も、撮り始めた子どもは日常のさもない姿です。見ていると、そのうちに子どものさまざまな姿が映っていくのです。それは、子どものことをよく理解し、子どもの行動を予測しないと撮ることができないのです。もしかしたら、それが「見守る保育」の基本かもしれません。

シンガポール報告9

セミナーの前には、こんなメッセージが流れます。「Be Here in the Present – 3 full hours of learning and reflection」「Listen deeply to learn and understand」「Test assumptions」「Share & make your thinking visible」「Turn off/silent all mobile devices」「Enjoy the Learning」です。このセミナーは、学習と振り返りのための3時間だと言います。学習はよくありますが、振り返りは意外と少ないような気がします。もちろん他人の話を聞くことによって、自分を振り返ることは多くあります。しかし、その気持ちで講義を聞くことも大切です。次の項目についても、私はあまり英語は得意ではないので、直感ですが、よく言いそうなことは「Listen carefully and seriously」のような気がします。しかし、「deeply」という言葉を使っています。それは、表面的な意味だけでなく、その言わんとしている意図も理解するように聞くことが大切であることを言っているのでしょう。そして、その考えを人にわかるように説明する必要があります。考えを実行に移すには、考えを可視化する必要があるのです。そうしなければ、お互いに理解しあうことは困難になるのです。そして、セミナーへの参加は、何よりも喜びであり、学ぶ喜びがあるのです。また、学ぶ喜びを感じる人は、その学びを実行することにためらいがなくなります。

また、そのセミナーの重要性を認識してもらうための工夫があります。それは、内容に共感することが必要ですが、そのためにまず、話し手に対するその内容の信用が必要です。今回は、私に対する信用です。主催者や代表は私のことを園に訪ねてきたときにいろいろと話をしたのでよく知っています。しかし、参加者は今回初めて私を知ることになります。そのために、代表が、私のことを重視することが効果的になります。そこで、話し終わって代表は、「この人に、本にサインをしてもらえるのは、とても貴重ですよ」「この人と会えるのはめったにないくらい有名な人ですよ」とみんなに言うのです。そこで、参加者は、私の本を自慢げに持ち、その本に私がサインをするのを頼みにきます。それは、アイドル並みでしたが、私は見守る保育を勧めるための作戦の一つだろうと思っています。やはり、マネジメントに学ぶことが多いですね。

二日目の講演対象者は、1日目と違って、また「見守る保育」」に取り組んでいない園に対して話をしてほしいということでしたが、打ち合わせをしていて若干違っていました。この法人は、全体で「見守る保育」を実践しようということは合意されているそうです。しかし、その理念を理解していて、具体的に取り組んでいるパイロット園は21園あり、その園の園長・副園長・英語担当、中国語担当が講演対象者でした。代表が言うには、ほぼ50%程度の理解だとすれば、二日目の講演対象者はほぼ10%理解している人たちだというのです。私からすれば、パイロット園を見学したときに、よく理念を理解し、本質を理解することからすぐに実践に移した園が、50%の理解とすれば、10%の理解している園だとしても、かなり理解しているだろうと推測できます。今回、二日目に話そうと思っている内容は、まだ取り組んでいない園に、取り組むように説得するのだと思っていましたので、いかにこの保育が次世代のために、また、最近の知見によって必要な保育であるかを強調する内容にしていました。そこで、その日の夜は、その修正で大変でした。

シンガポール報告8

シンガポールでの講演は、導入する保育について、実際に現場に生かされる、また生かそうとするための工夫がされていました。研修などでは、話しの内容にはうなづくことが多くても、実際に保育の中にどう取り入れればよいのかがわかりにくいことが多い気がします。ですから、研修に多く参加しても、それが実際には反映していきません。そして、「結局、今まで通りでいいのね」とか「いいのはわかるけれど、うちではね」とか、「それは理想論なのよね」などとつぶやいて変わっていきません。今回の話し合いでは、真ん中に置いたボードでは、話し合った内容を書き込んでいきませんが、最後のページには、では、明日からどうしていくのか、何を試してみたいのか、などを具体的に書き込んでいきます。今回、試しにしていってみたいことの中で多かったのは、異年齢でのふれあいでした。シンガポールでは、まだ年齢別保育を行っています。それは私の園の実践の中で、異年齢児が関わる姿を見てのことでした。私はそれを受けて、後で、小さい子の面倒を見てあげるとか、小さい子がやってほしいことをやってもらうためには、自分が小さい頃に上の子にやってもらった経験がなければ、他人にやろうとはしません。自分がやってもらい、それがうれしかったとか、助かった経験を積み重ねることで、自然と小さい子の手伝いができるようになるので、焦って、小さい子の面倒を見させるようなことは避けた方がいいという助言をしました。

もう一つ、具体的な行動に移すためのグッズがありました。それは、参加者に小さいノートを受付で配布します。そのノートは、話し合いの中で、自分は何をやってみたいと思ったのか、どこから始めようと思うかを書いていくノートです。しかし、日本でもこのノートのアイデアを取り入れ、配っても、終わってから白紙の人が多い気がします。結局、何も書かない人が多い気がします。しかし、ここシンガポールでは、皆いっぱい書き込んでいました。そして、実際にそれを行うための課題を、話し合いの中で取り上げたり、日本からの参加者に聞いたりしていました。

あと、この保育を実践するために、そのモティベーションを、また、取り入れようとする保育のステータスを上げるためにいろいろと工夫をしていました。まず、会場の雰囲気作りです。コーナーに実際の保育室を再現し、取り組みの実践例、その趣旨などの展示もその一つです。ほかに、見守る保育についてのさまざまなグッズが用意されていました。まず、最終日の保護者講演にスタッフ皆が着るおそろいの、ロゴの入ったTシャツです。そして、首に下げるセミナー名が印刷されたオリジナルのネックストラップ。また、ノートに書きこむための、やはりロゴ入りのボールペンです。色は、この法人のシンボルカラーのオレンジです。そして、やはり最終日の保護者講演の時に資料を持って帰るためのトートバッグで、色は青と黄色と2種類用意されていました。

また、今回様々な資料、案内板、すべてのロゴの入ったフレームを使います。講演でも、私たちは、パワーポイントを用意したのですが、その内容をすべて、先方の作ったロゴ入りのフレームに入れなおして、当日は使いました。それらは、すべてこの日のために用意されたもので、すぐにかかった費用を心配してしまいました。しかし、力の入れ方に、返そうと私も話をしましたし、会場の参加者も熱心に話し合っていました。

シンガポール報告7

講演会では、会場には様々な工夫がされていました。まず、紹介したように会場の一角には、取り組みの例としての保育室がブースとして紹介されています。そこには、展示のほか、様々なグッツも並んでいます。

環境からの展示としては、まず、「人」については、日本ではまず保育者を挙げますが、この展示では、まず「食事の時間」を上げています。そして、そこでは、食事の時間は、子どもたちが自助、自立、社会的スキルを育てる活動であるとしています。当番活動を通して、自助、自立という「人は支えあって生きていくこと」を実感することができ、集団保育の役割として、この人という環境は、家庭では用意するのは困難なものです。もう一つの人という環境を、クラスルームにおけるコミュニティとしています。この取り上げ方は、私からすると「見守る保育」で目指すことがよく理解できていると思いました。この2点を人という環境から取り組み始めたことは、代表の言う、「この園は、見守る保育の理解がまだそれほどできていない」ということはないような気がします。

次に「物」の環境の捉え方です。その一つは、「発達を意図した手作りおもちゃ」です。それぞれの年齢における意図を持った遊具を手作りで作るというのには感心しました。当日、そのいくつかが展示されていました。私も手作りおもちゃを見ることがありますが、きちんとその意図を意識して、それをきちんと表現しているのは感心しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一つのものとして「パズルとボードゲーム」を挙げています。この選び方もさすがですね。私の提案は、家庭とは違う子ども集団のある役割を主に環境を用意することを提案していますが、その一つにボードゲームがあります。これについては、かつてブログでも取り上げましたが、かつてのボードゲームのように、二者で戦うというよりも、数人で助けあう、かかわりあうことを学ぶボードゲームが大切です。このような遊具を用意しておく必要があります。

そしてもう一つの環境である「空間」です。それもただ場所とか、出来事とかいうだけで、どのような場所が必要であるかはあまり論じません。この展示では、まず、「絵本ゾーンとリラックスゾーン」としています。この度、実践園で見せてもらったゾーンの一つがこの場所です。これは、&とはなっていますが、それはそれぞれが別の場所ということではなく、二つの機能を持った場所という意味でもあります。これは、ドイツでもそうですが、本を読むということは学習という意味もありますが、リラックスするという効果もあります。そのための場所は、床にクッションを敷いたり、天蓋をつるしたり、部屋の隅に作ったりと工夫します。その一つのグッズの提案として、癒しのために座るクッションとして、タイヤの中にクッションを入れたものなどが並べてありました。見学した園では、そのような設定がされていました。

もう一つは、Engagementと創造ゾーンとあります。最初、Engagementゾーンの意味が分かりませんでした。ここでお互いに婚約するわけではないのにと思ったのですが、どうも私の園のピーステーブルのことで、この場所でお互いにここで出会って、分かり合うというような意味のようです。本質をよく理解しているようです。ですから、相手と自分の感情がよくわかるように感情パネルがあったり、握って心を鎮めるためのものとして、風船の中に小麦粉、コネ、豆、砂などを入れて、その表面に顔の絵が描いてあり、そのような気持ちの時にはこれを握るといいというかのように表現されています。

シンガポール報告6

シンガポールでのディスカッションでは、随分と参考になることが多いです。まず、話し合いの内容を、書記が記録するのではなく、机の真ん中に置かれたボードに次々と書いていきます。書きながらみんなの意見を聞き、なるべく主観的にならないように、皆に見えるように書いていました。しかも、その記録は、後で主催者が回収します。話し合われた内容が、記録として保存できるのです。同時に、個人的に疑問に思ったこと、課題だと思ったことは付箋に書いて、壁のボードに貼り付けます。そのあとは、日本でもよく行われるように、各グループから話し合いの内容の報告です。しかし、それもボードを見ながらの報告ですから、単に主観的な意見ではなく、きちんとした内容報告です。しかも、話し合う課題がきちんと設定されているため、内容も整理されてあります。

しかし、時間の都合で10グループも無理ですので、そのあとはどうするのかと思っていたら、面白いことを行いました。各グループに二人残して、残りの人たちは隣のグループに移動します。そして、隣のグループの残っている二人が、移動してきた参加者に話し合った内容をプレゼンします。そして、また次のグループのところに移動しています。こうして、内容を共有していきます。

話し合っている間、責任者と話をしていたのですが、興味のある話を聞きました。それは、保護者にどう説明するかということに対してです。今回、ブースで紹介していたのは、見守る保育の中で、どこから取り組んでいるかです。たとえば、それを聞いたときに、すべて取り組もうというのではなく、できるところから取り組むというと、あまり構えずに取り組みやすいという考え方に感心したのですが、実はもう一つ意図があったのです。それは、保護者対応です。「見守る保育に代えます!」というと、「それはどのような保育か?」「そのような保育で子どもたちはきちんと見れるのか?」といろいろと質問を受けます。それどころか、変えることに抵抗することもあります。それを説得したり、子どもが変わってくるまでじっと辛抱しなければならないことがあります。しかし、たとえば、「ピーステーブル」を取り入れるだけであれば、特に保護者への説明はいりません。しかし、それを作ったことで、「子どもにこんな姿が見れるようになりました。」という報告をしていきます。そうすることで、次第に見守る保育を広げていけば、保護者は特に意識せず、知らないうちに見守る保育になっているというのです。

今回の講演で異年齢保育のかかわりを紹介しましたが、それを見た園では、さっそく取り入れたいと言っていましたが、それは異年齢の活動を増やしていき、知らないうちに異年齢保育に代わっていくという取り組みだそうです。代表は、「何も大々的に取り組みを保護者に言わないで、少しずつ取り入れて、知らないうちに代わっていたということであればいいので、すぐにでも取り組めばいいのよ。」と取り組みが進まない園に助言していました。そんな導入もあるのですね。

いま、「はじめの一歩」という、取り組み始めての苦労を紹介する本を紹介しています。その中に、ぜひ、シンガポールで取り組み始めた例を入れたいという意向を話したところ、喜んで提供してくれるそうです。それは、28日に訪れた実践園で見せてもらった導入についてのプレゼンを見せてもらったので、それが欲しいと要求してみたのです。

シンガポール報告5

シンガポールでの講演1日目は、午前中は私の講演でした。会場のセッチングは、丸テーブルに座る方です。それは、午後のディスカッションのためです。講演内容として、私は、もうすでに取り組んでいる園の園長たちですので、「見守る保育10か条」に沿って、具体的な動画と写真を交えて話をしました。この10か条については、事前に英語に訳して先方に渡しておいたところ、それを資料として配布されていました。

この講演は、当初9時から13時までの予定であることが告げられていました。しかし、12時10分前になると、責任者から12時に終わるように指示されました。それは、会場の聴衆者を見ていると、真剣に聞いていて、頭がいっぱいいっぱいになっているようなので、これ以上続けると、頭に入らなくなるので、途中にいったん講演内容を整理する時間を設けたのでした。そこで、午後に予定されていたディスカッションを、午前中の1時間を当てて、講演内容を整理する時間にしたのです。参加者の顔を見て、柔軟に対応するのに感心しました。

13時からの昼食は、ロビーにおいてカフェテリア方式で行われました。メニューはシンガポール料理がメインでしたが、割と日本人にもなじめるものでした。しかし、何よりも感心したのは、紙皿とプラスチックのスプーンとフォークの並べ方です。今まで見たことのない、まさに芸術的とも言える並べ方です。

14時からは当初の予定を変更して、私の話を1時間して、そのあとディスカッションです。日本から、助っ人として同じ保育を進める仲間の園として10名が参加してくれていました。そこで、丸テーブルを10テーブル用意をし、参加者を10のグループに分け、日本からの参加者を各テーブルごとに1名、そして通訳の人をやはりテーブルごとに1名つけてくれました。話し合う内容として、講演を聞いて、どんなことが参考になったのか、何が課題なのか、自分の園で何に取り組みたいと思ったのかを話し合います。そして、出た意見を、テーブルの真ん中に置いたボードに書いていきます。このボードは、3Mの「ポストイット イーゼルパッド」と呼ばれるもので、その商品説明に、「模造紙のように大きな紙で作られた、巨大なふせん。」「簡単に壁に貼ったりはがしたりできるので便利。」「持ち手がついているから、持ち運びも簡単。」「会議室などで使うのにも最適。」とあり、サイズは、584x508mmで、紙の枚数は、20枚です。

参加者の中の一人が、その紙に参加者から出た意見を次々に書いていきます。私は、その話し合いには参加しませんでしたので、どのような話が出たのかはよくわかりませんでしたが、聞くと、日本と同じように、保護者にはどう伝えるのか、どこまで見てどこで保育者が介入したらよいのか、このような保育を受けた子たちはその後どうなっているのか、などだったそうです。