トリバースとライスは、男性の同性愛の遺伝子が、ゲイの男性ではなく、彼らの姉妹やその他の親族によって次世代に伝えられると考えたそうです。ゲイ遺伝子は、その持ち主が男であれ女であれ、同じ行動に向かわせると言います。男性とセックスをしたいという欲求です。遺伝子の持ち主が男であれば、彼らは同性愛者になります。しかし、次世代には彼らの遺伝子は伝わりません。しかし、持ち主が女なら、彼女たちはその遺伝子をもたない女たちよりも多くの男性のセックスパートナーをもち、より頻繁にセックスをするので、より多くの子どもを産むだろうと言われています。ゲイ遺伝子をもつ男たちの繁殖成功度が低下しても、彼らの姉妹たちの繁殖成功度が高まることで相殺され、ゲイ遺伝子は未来の世代に伝えられていくのです。
「男好きの姉妹仮説」とでも呼ぶべきトリバースらのアイデアは非常に大胆なものですが、この説を支持する研究結果が最近発表されているそうです。母方の親戚に同性愛者がいる女性は、そうではない女性に比べて、子どもの数が有意に多いというのです。ちなみにゲイ遺伝子は染色体上にあるので、父方ではなく、母方の系統で子孫に受け継がれると言います。
とはいえ、有史以来: まま一貫して、ゲイの男たちは社会規範や法的な締めつけで同性愛であることを隠すよう強いられ、異性愛の男たち同様に結婚して子どもをつくってきました。男性の同性愛遺伝子が今日まで受け継がれてきた理由として、最も有力と考えられるのはこのような事情だろうとミラー氏は言います。だとすれば、同性愛が社会的に受け入れられ、ゲイの男たちがカミングアウトして堂々と同性のパートナーと暮らすようになった時点で、皮肉にも同性愛の遺伝子は途絶えてしまうかもしれないと言うのです。
しかし、女性の同性愛の遺伝的なべースに関しては、今のところ何もわかっていないそうです。
次の疑問は、「きようだいでも性格が違うのはなぜか」というものです。この問題は、進化心理学の理論と研究の有効性を示す格好の例となったそうです。進化心理学の面目躍如というところだとミラー氏は言います。1994年には説明できなかったそうですが、今ではこの分野の異端のヒーローとも呼ぶべきフランク・J・サロウェーとジュディス・リッチ・ハリスのおかげで答えが出ているとミラー氏は言います。
サロウェーは1996年の著書「生まれつきの反逆児―出生の順番、家族の力関係、創造的な生活」で、きようだいは家族の中でそれぞれ異なる生態的地位であるニッチを占めると述べています。第一子である、長男長女は、生まれたときに親が与える資源をきようだいと奪い合わずにすむ立場で、多くの場合は親をお手本にして育ちます。また、その延長上として、権威ある人物をお手本にするようになります。第二子以降は、生まれたときにすでにきょうだいがおり、親に見習うというニッチはすでに兄や姉が占めているので、親とは距離を置き、反逆児になることで、独自のニッチを開拓しなければならないのです。サロウ=ーは、宗教、政治、科学の分野で活躍した歴史上の人物のデータを精力的に調べ上げ、第一子は伝統を守る保守的なタイプになるケースが多く、第二子以降は変革者になる傾向があることを実証したのです。このように、同じ家庭で育っても、長男か次男かで性格が違ってくると言うのです。